WONK×宮川貴光 ありのままに語るドキュメンタリーと「原点回帰」の裏側

WONK、『Documentary of artless –飾らない音楽のゆくえ-』より

WONK初のドキュメンタリー映画『Documentary of artless –飾らない音楽のゆくえ-』が10月に大阪・福岡・東京で公開される。山中湖での合宿を経て、5月にリリースされた最新作『artless』の制作風景を、バンドとは初顔合わせとなった監督の宮川貴光が客観的な目線で記録した本作には、『artless』というタイトル通りの、「ありのまま」のWONKの姿が収められている。

また、9月22日には丸の内ピカデリーのドルビーアトモス環境で映画の上映と『artless』の試聴会が行われ、その音の良さも大きな話題となった。今回の対談では、「ドキュメンタリー」の存在感が大きくなっている時代の中、どのように自らの表現と向き合っているのかを、それぞれのアングルで、リアルに語り合ってもらった。




―まずは今回『artless』の制作風景をドキュメンタリーにして公開しようと考えたのは、どういった理由からだったのでしょうか?

江﨑:もともと前作の『EYES』を出したときに、荒田が「映画館でライブをやりたい」と言ってたんです。それをすごく覚えてて、サカナクションさんがサラウンドライブをやったりしてるのも気になってたんですけど、当時はまだサラウンドというものが一般的に親しみあるものではないと思ってたんですね。でも、空間オーディオが出てきて、みんなAirPodsとかで聴けるようになるんだったら、ライブをするのは難しくても、作品を映画館のサラウンド環境で聴いてもらうのは面白いなと思って。で、それをやるんだったら、ドキュメンタリーを撮って、その上映プラス作品の試聴会にしたらいいんじゃないかと思ったら、広報をやってくれてる花摘モモエさんが「荒田さんと文武さんと同い年の超お勧めの監督がいます!」って、宮川監督を紹介してくれて。


9月22日の東京・丸の内ピカデリーにて、『Documentary of artless-飾らない音楽のゆくえ-』公開初日にWONKメンバーと宮川貴光監督によるトークイベントが開催された。写真左から司会の花摘モモエ、宮川貴光監督、荒田洸(Dr)、長塚健斗(Vo)、江﨑文武(Key)、井上幹(Ba)。(Photo by Takahiro Kihara)

―スタートはドキュメンタリーではなく、試聴会の方だったんですね。

江﨑:そうなんです。ドキュメンタリーに関しては、その頃にディズニープラスで『ザ・ビートルズ:Get Back』が話題になってたのもあり、「こういうのやりたいな」と思ったのもあって。

―僕もWONKがドキュメンタリーを公開すると聞いて、最初に連想したのが『Get Back』でした。「原点回帰」というテーマは『artless』ともリンクしますしね。

江﨑:完全に影響を受けました(笑)。

井上:文武が一時期音楽ドキュメンタリーづいてて、「ダフト・パンクよかった」(『UNCHAINED』)とか「ビリー・アイリッシュよかった」(『世界は少しぼやけている』)とか、『ボヘミアン・ラプソディ』とかも含めて、ちょこちょこお勧めされてたんですよね。2年くらい定期的に「これがよかったです」と言われ続けたので、サブリミナル効果みたいになって、みんな何となく「ドキュメンタリーいいな」みたいになってたんです(笑)。

―近年音楽のドキュメンタリーが増えてますよね。動画のプラットフォームが増えたのもその一因だと思いますが。

江﨑:ビリー・アイリッシュのドキュメンタリーでいいなと思ったのが、本人がiPhoneとかで家でパッと撮ったような動画も使われてたところで。誰でも手軽に動画を残せるようになったのは最近と言えば最近で、それによってよりリアルな姿を見ることができるから、そこが楽しいなと。

宮川:その話に関連して、一方でいま作為をもってリアリティを演出する映像コンテンツが増えてる印象があって。例えばこの数年YouTubeで流行ったものって、一見すると僕らの生活の延長線上にいそうな人たちが、僕らの生活ではできない「メントスコーラ」的な破茶滅茶なことをしてくれる、といったものでした。だけどそのほとんどが事務所に所属してるタレントで、裏で誰かが企画していることは周知です。本当はみんな分かっているんだけど、その裏にある作為や真実を視聴者は見る気がないし、作り手も見せたがらない。それはコンテンツとしての見せ方に過ぎないという反論もありそうですが、他にもTwitterで流布されるフェイクニュースや戦時下での情報心理戦でも実は同じようなことが起きてると思います。僕はこれについて、作り手も視聴者も気付かないうちに、自分に都合が良い解釈に偏っていくという現代的な情報社会の影を感じるし、「真偽がどちらであっても本物に見えてしまう」という映像の暴力性を利用しているように見える。SNSが仕掛けた映像の現れには、そうした「見せかけのリアル」でもって人々を現実逃避させるメディアとして、映像が暗躍しているという問題があるんだと思います。とはいえ、僕のやっているドキュメンタリーというジャンルもたぶんに作為的ですから、結局は視聴者の解釈に委ねざるを得ないわけですが……。


宮川貴光(Photo by Takahiro Kihara)

―じゃあ、宮川監督とメンバーは「はじめまして」からのスタートだったわけですね。

江﨑:合宿所で「はじめまして」でした。

井上:それまではZoomのやりとりだったので。

―宮川監督は今回の話を受けて、まずどう思われましたか?

宮川:素直に嬉しかったですね。なぜかというと、今回のオファーは僕のこれまでの考えが繋がった経験だったからです。僕はこれまで主に美術の現場で仕事をしてきましたが、その仕事を始めた2010年代は、カメラの更なる小型化も相まって、美術作家が記録映像を展示することが国際的に増えた時期でした。暴力的にもありのままを映し出す映像記録という手法が、具体的にモチーフを浮かび上がらせられる方法として応用されたのではないかと思いますが、これを映画史から見ると、そもそも異文化の営みを伝聞させる記録映画からその歴史が始まってますから、100年以上の時を超えて美術が映画を「回帰」させていると見ることもできる。これは劇中で文武さんが言っていたエリック・サティの提言「家具の音楽」が現代に「回帰」しているという指摘と、少し重なる部分があります。

―なるほど。

宮川:この「回帰」って、いわば社会の要請だと思うんです。映像や音楽がそうなろうとしてなったのではなく、社会が今そういう要請を僕らにしている。ではこの要請に応えてみよう、と僕は考えました。具体的な例として、商品開発のプロセスを見せる映像があったとします。こうしたものは販促の一環で、単発のPR企画という作為の形式でつくられているわけです。ならば、その商品の裏にある企業努力そのものを、アーカイブという記録の形式で積層できれば、企業の信用に繋がるのではないかと考えました。こういう考え方を元に仕事をし始めた頃、展覧会のアーカイブとして企画された初監督作品(『TOKYO 2021 -アートと建築から時代に向き合う-』)で、早速それを、しかも映画という形で実践できた。それで映画を公開したら今度はすぐに今回のお話が来て。これは20代のうちに考えていたことの一つだったから、それが繋がった実感を持ててすごく嬉しかったし、こういう仕事ばかりができるわけではないのでありがたかったですね。



―ちなみに宮川監督は、WONKのことはどの程度ご存知でしたか?

宮川:全く知らなかったです。だからこそオファーをされたというか、花摘さんは「知ってる人に頼みたくない」とおっしゃってて、「全く知らない、サラの状態で来てほしい」と言われたんです。なので、音楽は聴きましたけど、情報はWikipediaを一読するくらいにして、ほぼゼロの状態で行きました。

―事前のZoomの打ち合わせではどんな話をしたのでしょうか?

井上:中身についてはほとんど話してないんですけど、「ファン目線のコンテンツじゃないものにしたい」っていうのは言ってて。

江﨑:「カメラに向かってピース」みたいな(笑)。

井上:そういうファンの人が見たいものを想像して組み立てていくコンテンツじゃなくて、WONKのことをよく知らない人が観ても惹かれるものがある作品にしたいっていう、そこだけ大枠としてあった感じですね。

宮川:WONKくらいの規模感で活動している人たちがドキュメンタリーを作るとなったら、普通はエージェントに投げてクリエイティブディレクターがスキームを組み立てる、今度はプロダクションにパスしてプロダクションが制作をするっていうのが普通だと思うんです。でもそうじゃなくて、僕みたいな個人の作家にポンって丸投げしてきたというこの状況をまず読み解かなきゃと思って(笑)。そういう大きい組織ではなく僕にオファーをするということは、一般的に見て見どころ満載で、完成度の高いものというよりは、ちょっと粗さが残ってるぶん本当にそこで起きていた事実をなるべく希釈することなく見せられるみたいな、僕自身が得意なのもそういうことだから、そっちの方向に持って行くことは大前提として考えてました。

―『artless』というタイトル通りの、まさに「ありのまま」を映し出す作品ですよね。

江﨑:合宿に行く前はちょっと行き詰っていたというか、制作が上手く行ってない状態だったけど、そういう時期をそのまま記録したらきっと面白いものになるんじゃないかとは思ってたんです。なので、そこで起きるコミュニケーションをとにかく全部押さえてほしいとお願いして。きっと腹を割った話みたいなことも出てくると思ってたので。

―実際に、映画の中ではそういうシーンも収められていますね。『Get Back』ほどメンバー間が気まずくなるシーンはなかったですけど(笑)。

宮川:それは僕も狙ってたというか、バンドだから2:2で分かれたりとか、本当はあんまり仲良くないんじゃないかとか、そういうこともちょっとは想定してたんですけど、みんなメチャクチャ仲良くて。誰に言われるでもなく、普通にみんな同じ席で飯食ってましたしね(笑)。

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