ルイス・コールが明かす、超人ミュージシャンが「理想のサウンド」を生み出すための闘い

ルイス・コール(Photo by Richard Thompson)

 
ルイス・コール(Louis Cole)の音楽は、ノウワー(Knower)での活動がメインだった初期からポップで尖っていて、日本でも一部で話題となった2013年のソロ作『Album 2』の頃から、奇妙なのにキャッチ―な作風はずっと一貫している。Brainfeederと契約した2018年の前作『TIME』でいくらか洗練されたが、エキセントリックな奇才という印象は今も変わらない。

彼の音楽がここまでの影響力をもつようになるとは正直思わなかったが、例えばドミ&JD・ベックの話題となったデビューアルバム『NOT TiGHT』は、明らかに「ルイス・コール(とサンダーキャット)以降)」を感じさせるものだ。ここ日本でも、多くのミュージシャンがルイスに賛辞を送っている。そういう意味でも、次の一手には大きな注目が集まっていた。

最新作『Quality Over Opinion』は、肩の力が抜けた素晴らしいアルバムだ。ルイスらしい奇妙さもあるし、人懐っこいソングライティングの手腕も発揮されている。20曲もの楽曲を収めたことで、その創造力やあふれ出るアイデアが様々な形でアウトプットされているのも楽しい。気合の入りまくった『TIME』とは違う、普段着のルイスがここには詰まっている。

そんなルイスとの取材ではニューアルバムのことも尋ねつつ、彼の音楽に対する取り組み方、もしくは音楽家としての姿勢みたいなものを掘り下げてみた。そこまで口達者なタイプではないはずだが、ノウワーの相棒であるジェネヴィーヴ・アルターディとの欧州ツアーの移動中、iPhoneでのZoom取材に応じてくれた彼は、ずいぶん饒舌に話してくれた。超人ミュージシャンとして愛されながら、彼の個性は言葉にしづらいところもあったが、理解するためのヒントが少しもらえたような気がする。

また、このあと12月に開催される、大編成のビッグバンドを率いてのジャパンツアーをもっと楽しむために、「ルイス・コールのビッグバンド観」についても話してもらった。来日公演への期待とともに読んでもらいたい(全公演が即完売となり、東京の追加公演、大阪・名古屋の追加チケット販売が決定)。



―前作『TIME』からリリースの間隔が空いていますが、いつ頃から作り始めていたんですか?

ルイス:前作を作り終えてからすぐに着手したから、制作期間は4年くらい。ただ、毎日やっていたわけじゃなくて断続的にね。アルバムの中には前作よりも前に作っていた曲もある。1曲目の「Quality Over Opinion」、7曲目の「Failing in a Cool Way」、10曲目の「True Love」は、未完成のまま残しておいた曲を仕上げたものだ。

―それらの曲は、前のアルバムには合わなかった?

ルイス:というよりは、なんか納得がいかないから、デモ状態のまま放っておいたって感じかな。僕はとにかく書きたいことがいっぱいあるから、そういう作りかけの曲がたくさんあって、ずっと気にかけているんだよ。それで、思い出した時にふと聴いてみたら、急にピンとくることがある。今回もそのパターンだった。



―あなたはソロ作をほとんど一人で作っていると思うので、そんなに関係なさそうな気もしますが、パンデミックの前後で何か違いはありましたか?

ルイス:いくつかあるよ。例えば、ツアーがなくなって時間の余裕ができたことが、昔のアイデアを完成まで漕ぎ着けることに繋がった。頭のなかを整理できたから、さっき挙げた数曲を完成させられたんだ。あとはアイデア探しも捗ったし、サウンドについてのリサーチもどんどん進めることができた。これも家にいる時間が長かったおかげだね。

それから、世界中に悲しみや怒りが満ちているなかで「自分が言いたいことと、みんなが聴きたいことは一致するのだろうか」と考えたりもした。そういったことを模索する時間にもなったよね。結果的に「こういうことを歌いたい」という思いを、何とかまとめることができたのが今回のアルバムだとも思う。

―歌詞にもメッセージみたいなものがかなり入っている?

ルイス:そうだね。でも、誰もが世界の現状について語っているなかで、僕がいまさら語るようなことはしたくない。それで結果的に、僕のパーソナルなことを歌うことにした。それは僕にしか書けないユニークなことだし、個人的な見解として何かを伝えることが、僕にとっては最適なやり方だろうと思ったんだ。

―パーソナルなことって、例えばどういうことですか。

ルイス:ハートブレイクがあったんだよ。あと、健康面にも問題があった。どちらもすでに解決しているんだけど、その経験によって世界の見え方も変わったんだよね。他にはハッピーな状況を歌った曲もあるし、みんなとの繋がりを歌った曲もある。最終的にいろんなことを歌っているアルバムになったね。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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