スティーヴ・レイシー(Steve Lacy)は、誰も予想できなかった形で2022年の顔となった。最新アルバム『Gemini Rights』に収録された「Bad Habit」が徐々に順位を上げていき、10月に入って全米シングル・チャートで3週連続1位を達成。ジ・インターネットのギタリストであり、ケンドリック・ラマ―、ソランジュ、ヴァンパイア・ウィークエンドなどの作品にも携わってきた24歳の実力派は、この世界的大ヒットをどのように捉えているのか。最新インタビューをお届けする。
米カリフォルニア州出身の実力派アーティストのスティーヴ・レイシーは、グラミー賞の常連だ。24歳という若さにもかかわらず、シンガーおよびプロデューサーとして活躍するレイシーは、高校生のころからグラミー賞を支えているといっても過言ではない。その音楽的才能はポストR&Bバンド、ジ・インターネットのギタリストとして遺憾なく発揮されているばかりか、2019年にリリースされたソロデビュー作『Apollo XXI』においても疑いの余地がない——たとえ本人がそう思っていなくても。「当時は、すべてがぼんやりしていた」と、電話越しにレイシーは話す。「いまは、ありとあらゆる選択にものすごく気を配っている。すべてのものに意味があってほしいと思っているから。でも『Apollo XXI』のころは、そういうことには無頓着だった気がする」
2作目のスタジオアルバム『Gemini Rights』(7月15日リリース)でレイシーは、過ちに対する感情面の報いがどのようなものであるかを同世代のアーティストの誰よりも明確なイメージとして描き出している。本作は、成熟することと感情がじっくりと展開される、繊細さに満ちたアルバムなのだ。爆発的にヒットしたシングル「Bad Habit」——この曲は10月初旬にビルボードの全米シングルチャートHot 100のトップに君臨していたハリー・スタイルズの「As It Was」をその座から引きずり下ろした——ひとつをとっても、はやくも名曲の風格が感じられる。それに加えて、“君が僕を求めていたなんて知らなかった”(I wish I knew you wanted me)というリフレインは、瞬く間に現代のポップカルチャーの聖典入りを果たした。
―2019年のデビューアルバム『Apollo XXI』とニューアルバム『Gemini Rights』を比較しながら聴いてみると、この3年間にいろんな変化があったようですね。
レイシー:そうだね、少しはあったかな。昔と比べて思慮深くなったし、計画的になったのは間違いない。最近は、いろんなことがはっきりわかるようになってきたよ。
―『Apollo XXI』は当時、グラミー賞最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートされました。
レイシー:そうなんだ。ほんと、笑っちゃうよね。あのときは「何事ですか?」って自分でもびっくりしたし、同時に「うわ、やばい」って思った。だって、『Apollo XXI』には、2、3パーセントくらいしか力を注がなかった気がするから。だから「やばい。それなのにグラミー賞って、正気かよ?」って思ったんだ。それに比べると、このアルバム(『Gemini Rights』)にはたくさんの努力と想い、そして時間を注いだ。僕が携わったどのプロジェクトよりもたくさんね。
―ソングライティング的には、どのようなアプローチからインスパイアされたのでしょうか?
レイシー:いろんなことさ。その多くは、自分探しの旅だったかもしれない。自分の私生活と関わりのあるものが多かった。私生活の面では、語りたい真実がたくさんあった。それがアルバム全体に流れているんだ。
―今作にはさまざまな感情が登場します。どれも明確に描かれていますね。
レイシー:そう言ってもらえるとすごく嬉しいな。まさにそれがねらいだったから。僕の頭の中は、そういう働き方をするんだ。そこをわかってくれて本当にありがとう。これは、僕にとって大きな挑戦でもあった。このアルバムを通じて、僕という人間を知ってほしいと思った。息抜きをしながら友達と交わす会話は、まさにこんな感じなんだ。