DJ FUMIYA×熊木幸丸「リズムの探求者たち」

左から熊木幸丸、DJ FUMIYA(Photo by Yuuki Ohashi、Styling by Daisuke Kamii/DJ FUMIYA)

以前、Lucky Kilimanjaroの熊木幸丸に取材した際、一番影響を受けた存在だと語っていたのがRIP SLYMEでありDJ FUMIYAだった。2000年代、日本のポップミュージックやロックミュージックの文脈にダンスミュージックの尖った感覚や遊び心を持ち込んだRIP SLYME。ダンス音楽を拡張させてきたFUMIYA、Lucky Kilimanjaroのバンド活動を通じて今まさに拡張している最中の熊木。両者の対談をお届けする。

※この記事は2022年6月発売「Rolling Stone Japan vol.19」に掲載されたものです。

「踊らせること」へのプロ意識

熊木 僕、RIP SLYMEが音楽のスタートなんです。中学生の時、RIP SLYMEの「GALAXY」(2004年)というシングルをレンタルCDショップで知って、“うわ、今まで聴いてた音楽と全然違うものが流れてる、なんだこれ、ワケわからない”と思って衝撃を受けて、『MASTERPIECE』(2004年)を買って、昔のアルバムも全部買って。そこからずっと好きで、ずっと聴いています。リップがきっかけで、いろんな洋楽を知って、それこそファーサイドとか90年代のヒップホップを聴いたり、どんどん拡張していったんです。クラブミュージックが好きなんですけど、自分でLucky Kilimanjaroっていうバンドスタイルの活動を始めて、そのなかで自分が曲を作るときは、FUMIYAさんの作るトラックの遊び心とかリズムの感覚にすごく影響を受けてるなと思います。今回対談させていただくことになってちょっと緊張していますが、楽しみにしていました。





FUMIYA こっちも緊張する(笑)。すごくうれしいです。

熊木 リップのライブは何度も行ったんですけど、日本のメジャーシーンってところで、それこそロックフェスでもガンガン踊らせる。ほんとにたくさんの人がめちゃくちゃ踊っていて。純粋に、それが成り立つのが凄いなと思いました。踊れる人がいる現場と、踊り方が分からない人がいる現場ではそんなに意識は変わらず、自分の音楽を届けるという感じだったんですか?

FUMIYA それはちょっと悩んだ時期もあったんです。リップのお客さんの前でDJをやると、ガシガシ踊るというよりはずっと見られてる感じがあったりして、最初はけっこう戸惑いました。それでもうまいこと選曲すれば、ぴょんぴょんでもゆらゆらでもしてくれることに気づいて、そこからはもう関係なくなったというか、ただ純粋に楽しませてあげたいなって思いはありましたね。

熊木 RIP SLYMEってファンのコミュニティがちゃんとできていて、ワンマンに来てるお客さんはもう分かってるんですよね。でもフェスでは、RIP SLYMEのことは知ってるけどライブに行ったことない人もいるし、いろいろな世代の人がいる。でもそういう人たちもちゃんと踊っているんです。しかもロックミュージックの感覚とは違う踊り方をしていて。なんでこれができるんだろうって不思議だったんです。自分の中でロックミュージックの人は、やっぱりロックで体を動かすことに慣れているなという感覚があったから、ナチュラルにこういう空間が出来上がるのはRIP SLYMEのパワーなのかなって思いましたね。僕も自分の音楽で好きなように踊ってほしいという感覚がすごくあって。ダンスっていうと、いわゆるパフォーマンスのダンスを想像されることがまだ多くて、でももっと普通に、なんでもなく馬鹿になって踊ってくれればいいのにな、みたいな感覚がある。それを自分のライブでたくさんの人に伝えていきたいなと思うので、そういう意味ではRIP SLYMEのライブを観た体験が、絶対に自分の糧になってますね。

FUMIYA Lucky Kilimanjaroのライブだと、どういう感じの構成なんですか?

熊木 僕らの場合はヒップホップというより、むしろハウスミュージックがベースになっている部分があると思っていて。曲によって全然違うんですけど、いわゆる縦に動くというより横に動く。でも横に揺れたりする自由さが、会場によってまちまちだったりしていて、まだ縦に乗る文化が残っているなという感覚はあるんです。そのなかで自分たちの曲をクラブミュージックのようにどんどん繋いでいって、みんなの熱が徐々に上がっていく高揚感を作って、踊れるようにしようと思っていつも構成しています。MCがあまり得意ではないので、ライブも20曲以上、MC無しで歌いっぱなしでやったり。

FUMIYA 確かにリップで言うと、MCの煽りは結構重要なところかもしれない。

熊木 めちゃくちゃうまいですよね! リップのライブで好きだったのは、MC中もちゃんとバックでDJするところ。あれがすごく好きで、今はやってないですけど、昔MC入れてた時はそれを真似して、サンプラーに入れて流してました。

FUMIYA なるだけ音は切らないっていう。

熊木 そうなんです。音を切っちゃうと、それまでの熱量が消えちゃう感じがあって、そこはすごく大事にしています。熱量というか、ここに発生しているナラティブ(物語)みたいなものを絶やさないようにしよう!っていうのは、すごく考えるようになりました。

FUMIYA 例えばケミカル・ブラザーズのライブもずっと繋がってるもんね。ダフト・パンクもそうだし。

熊木 はい。僕はやっぱりそういう文化が好きですし、ケミカルなんて、ライブ観るとほんとヤバイなと思います(笑)。信じられないようなライブをやってるなと思います。でもああいう面白さは絶対、日本でもできると思ってますし、それを日本のポップスのスタイルでやったら面白いと思って、今はやっている感じです。

FUMIYA Lucky Kilimanjaroの曲を聴かせてもらって、DJ寄りではない“今のダンスミュージック”をやっていてカッコいいと思ったし、凄いと思いましたね。



熊木 僕はクラブカルチャーやDJカルチャーには、そんなに深く接していたタイプではなかったので。遊ぶ程度というか。それよりはベッドルームミュージックだったりバンドってところからスタートして、そのなかでクラブミュージック、ダンスミュージックの面白さを知って、自分でも表現している。でも一方で、クラブミュージックの現場でやっている人たちへのうらやましさみたいなものはずっと感じています。ポップミュージックとしてじゃなく、ダンスミュージックとして純粋に楽しんでるっていう感覚へのうらやましさがあります。自分ではまだ、そこまではできていないんだろうなって。

FUMIYA でも、それがうまくバンドのサウンドと混ざってるし、どことなく切なさがあって、そこがすごく今時っていうか、熊木くんっぽいと思う。声もあると思うんだけど、その切ない感じはすごく魅力的だなと。

熊木 元々はポストハードコアだったりポストロックがすごく好きで、内省的な人間の爆発している部分が好きだったんです。そういう感覚を自分の音楽に入れていきたいなと思いますし、おそらく自然にそういうスタイルになっていると思うんですけど。

FUMIYA 例えばジェイミーXXとか。あの人も基本切ないけどなんか盛り上がるっていう、そういうところに通じてるなって思うから、今の世界のダンスミュージックの流れってそうなのかなって。熊木くんが作る音楽は、いろいろ実験して作ってる感じがすごく伝わってきて、ワクワク感がある。自分で歌って声のサンプルっぽくしてるのとかもすごく面白いし。いま何歳ですか?

熊木 今年32になります。

FUMIYA 自分からすると、そのイケイケさ加減が、ちゃんと伝わってくる。

熊木 確かにちょっと前に比べると、いい意味でどうでもよくなったというか、遊んでいいんだな、みたいな感覚がより出てきたっていうのはあります。でもそうやっていろいろな音楽やサウンドを入れていいって思えるのは、RIP SLYMEのおかげで。「楽園ベイベー」(2002年)、「FUNKASTIC」(2002年)、「BLUE BE-BOP」(2002年)。音楽は引用の仕方でいくらでも面白くなれるし、いくらでもカッコよくなるし、いくらでも踊れるって思えるのには、絶対にRIP SLYMEの影響があります。それがあるから自分もいろいろなジャンルで遊んで、自分のスタイルとして落とし込んで楽しみたい。そうじゃなかったら、もっと今っぽい、サウンドの幅をある程度絞るスタイルになってたかもしれないですし。RIP SLYMEがあったから、今こういう音楽をやっているというか。







FUMIYA それはすごくうれしいです。「楽園ベイベー」や「STEPPER’S DELIGHT」(2001年)を出してた頃って、割とまだヒップホップから出てきた人たちがそんなにいなかったから、やっぱちょっと変なふうに見られてたところがあって(笑)。でも楽しかったらいいじゃんと思ってた。サンバもラテンの音楽も、ドラムンベースにしてもちゃんとリスペクトしてるし。だから別に何も恥ずかしくないぞって。ラップも無理やり乗っけてるわけじゃなくてしっかり乗っかってるし。根底にあるのはヒップホップっていうのは変わらないから、負けないって気持ちでやってましたね。バンドでは最初からボーカルだったんですか?



熊木 もともとボーカルをやろうとは思っていなかったんですけど、やる人がいないから歌うか、みたいな感じで最初は消極的なスタートでした。自分としてはギターとか、曲作りをやりたいなと思っていて。でも最近は、歌が楽曲のグルーヴの大事な部分にあるなって思うので、自分の歌がもっと良くなれば、皆がもっと踊れるようになるし、もっと伝えられるようになるなって気づいて、楽しくなりましたね。

FUMIYA 声が魅力的っていうか、リズム感もそうかもしれないですし……好き!

熊木 (笑)ありがとうございます。でも最近、どういうふうにリズムを捉えるかっていうところで、歌の先生をはじめ、いろいろな人に教えてもらったり、自分で感じ直したりしてるんです。

FUMIYA 熊木くんはすごくリズミカルっていうか、パーカッションっぽい感覚があるから、ラップっぽく聞こえる瞬間もある。でもちゃんと歌になってて、そこもすごく新鮮。ちゃんと節もついてるけど、なんかラップっぽい感じ。そこも魅力だなって思う。

熊木 僕はアフリカンリズムが好きで。ブラックミュージックの根底にある、16分をあえて考えないっていう感覚がすごく好きなんです。そういうふうに音を入れていきたいなという思いがあって、歌を歌う時とかはあまり縦のラインを考えずに、自分の声が一つの楽器になってる感覚でやるようにはしてますね。

FUMIYA 俺も最近アフリカの曲を聴いてて。アフリカのダンスミュージックって面白いのがいっぱいある。基本楽しそうっていう(笑)。
 

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