『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』がMCU史上最高の続編となった理由

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 (C)Marvel Studios 2022

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』を観る人は、必ずハンカチを用意すること。本作では、ライアン・クーグラー監督とキャストたちが亡きヒーローと俳優の死を悼む一方で、シリーズの新たな力関係が描き出されている。以下、米ローリングストーン誌の作品評。

ライアン・クーグラー監督による2018年の大ヒット映画『ブラックパンサー』の続編『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が厳粛なムードとともに幕を開けるのは、ある意味必然なのかもしれない。ここには決定的な何かが欠けているのだ。もちろん、地球規模で展開される多面的でパン・アフリカ主義的なストーリーは前作に続いて健在だ。さらに本作では、ヨーロッパのコンキスタドール(征服者)によるアメリカ大陸の植民地支配から、緊張感みなぎる現代のCIAの陰謀にいたるまで、多岐にわたる歴史が描かれている。それに加えて、自らの正義を掲げる悪者の存在や儀式と伝統への鋭いフォーカス、ワカンダという王国の可能性に対する純粋な愛情などがストーリーをさらに盛り上げる。それでも、何かが失われたことを認めずに本作を観るのは不可能であるだけでなく、正しくないような気がするのだ。本作もこの点を十分理解しているようだ。2020年8月28日、ワカンダの国王ティ・チャラを演じた俳優のチャドウィック・ボーズマンが結腸がんのため43歳で他界した。ボーズマンの訃報は、多くの人々に衝撃を与えた。ボーズマンは、病気のことをごく一部の人にしか明かしていなかったのだ。クーグラー監督は、映画づくりを辞めたいと思ったほど打ちのめされた。



それでもクーグラー監督は、映画を諦めるのではなく、前作に携わったコラボレーターたち(衣装デザイナーのルース・E・カーターやプロダクションデザイナーのハンナ・ビーチラーらは本作でも素晴らしい仕事をしている)とともに怒りと悲しみ、そして混乱に根ざした続編を完成させた。国王不在のワカンダは、どのような運命をたどるのだろうか? 本作は、大切な人の死を悼むことのできる人——できない人は、理不尽な世界に怒りの矛先を向ける——による自己省察の試みを描いている。現実を受け入れるか、血に飢えた復讐や正義、すべてを焼き尽くす怒りの炎に身を委ねるか。これは多くのヒーロー映画のカギを握る、危険なジレンマでもある。

本作は、この作品がほかのヒーロー映画とは一味も二味も違うことを最初のシーンから証明する。本作で描かれるヒーローと悪者の壮大な葛藤が真に迫るのは、この作品が直球のヒーロー映画よりもはるかに大きなものを拠りどころとしているからだ。ティ・チャラは、自分を信じることでヒーローとしての運命をつかみ取った単なる風変わりなアウトサイダーではない(あるいは、運命によって膨大なレガシーとともに自らの未来を引き継いだといえるかもしれない)。ましてや、喪失感によって復讐に駆り立てられることもなかった。ティ・チャラは復讐などしない。彼は守護者なのだ。ワカンダの運命は、最初からティ・チャラの肩にかかっていた。彼自身も気づいていたように、最初から大勢の先祖が彼を導き、監視していたのだ。


神と崇められる戦士の王ネイモアに扮するテノッチ・ウエルタ(Photo by ELI ADÉ / MARVEL STUDIOS 2022)

かくして本作は、国王ティ・チャラを失ったワカンダからはじまる。「謎の病によって国王が急逝」とメディアが報じるなか、すべての人に「どうして?」という疑問がのしかかり、ひとりひとりが国王の死と向き合わざるを得ない状況に陥る。国王を失ったワカンダは、他国にとっては格好のターゲットだ。世界中の強国が兵器を開発するのと同じように、誰もが鉱石“ヴィブラニウム”を狙っている。ワカンダの舵取りを任されたティ・チャラの母である女王ラモンダ(アンジェラ・バセット)は、まずは息子の死を受け入れなければいけない。それは、ティ・チャラの妹シュリ(レティーシャ・ライト)にも当てはまる。オコエ(ダナイ・グリラ)とアヨ(フローレンス・カスンバ)率いるワカンダの国王親衛隊“ドーラ・ミラージュ”はかつてないほど強力だが、悲しみという手強い敵を相手に苦戦している。ティ・チャラの幼馴染で元恋人のナキア(ルピタ・ニョンゴ)は、もうワカンダにはいない。いつも陽気な戦士エムバク(ウィンストン・デューク)の冷静な話ぶりと見事な毛皮もあまり役に立っていない。どうやら、誰もが少し途方に暮れているようだ。

Translated by Shoko Natori

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