W杯開幕、カタール政府が隠す移民労働者たちの死と窮状「これは現代の奴隷制度だ」

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現地時間20日に開幕したカタールW杯。2010年にFIFAがワールドカップ開催地をカタールに決定して以降、10年間で6500人以上の移民労働者が現地で亡くなっている。スタジアムの建設作業員が明かす、労働者の死と窮状。

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早朝4時、カタールの労働キャンプで目覚めたアニッシュ・アディカリさんは、前の晩に食べた魚が傷んでいたせいで下痢に見舞われた。華氏125度(摂氏52度)の酷暑のなか、1日14時間も働いているというのに、雇用主からは限られた量の水しかあてがわれないため、扁桃腺が腫れあがっていた。だが彼は希望を捨てていなかった。8万人の観客のために空調設備を設置すれば8000ドル相当の金が入り、今後3年間はネパールにいる家族を養えるだろう。それに、2019年からハマド・ビン・ハリード建設(HBK)の仕事をあっせんしてくれている高利貸しにも借金を返済できる。ちなみにHBK社は、カタールを統治するアール・サーニー家でも高位の王族メンバーが所有する建設会社だ。アディカリさんは父親と病気の母を思い浮かべた。両親はハリケーンでボロボロになった農場の家で、家畜小屋を台所代わりにしながら、息子兄弟6人と嫁4人、孫8人と暮らしている。サッカー好きな23歳のアディカリさんは、今年のワールドカップで決勝が行われる会場の建設に携わっていた。夜明け前にルサイル・アイコニック・スタジアムに到着した日などは、疲労も吹き飛ぶほどだった。

サッカーの統括組織FIFAが人権抑圧国家をワールドカップ開催地に承認した後、カタール政府とFIFAは労働改革と労働者の保護を約束したが、人権団体はずいぶん前から、強制労働の域に達しかねない移民労働者の搾取を警告していた。アディカリさんの場合、今大会の「レガシー」の責任者となる最高委員会の代表者と面会することができた。アディカリさんは労働条件について不満を訴え、「まるで雨に打たれかのように」全身汗だくになり、嘔吐や動悸に襲われると陳情することができた――少なくとも、HBK社のマネージャーが口うるさい従業員を労働者福祉の討論会に呼ばなくなるまでは。アディカリさんは現場を訪れたFIFAの独立査察官にも2度面会し、就職費用と福利厚生手当の95%が――アディカリさんの給料の2/3も――跡形もなく消えてしまったと訴えたそうだ。

さらに今度は労働権利団体Equidemによる驚くべき最新報告書だ。報告書の聞き取り調査でアディカリさんともう1人の労働者は、スタジアム場内の火災報知器が鳴り出して緊急避難することがよくあった、と主張している。ただし火の手が迫る様子はなかった。建設作業員の話では――迫っていたのはFIFAだった。アディカリさんはローリングストーン誌とのインタビューでもカタールでの生活を詳しく語ってくれたが、親方はよく「査察官だ! 査察官が来るぞ!」と叫んでいたそうだ。王族が所有する建設会社は、火災報知器を「戦術」として利用していたとアディカリさんは言う。作業員をまとめて外へ連れ出し、全員バスに乗せて監視付きのキャンプに送り戻して、FIFA査察官には4000人以上の移民が昼食に出たように見せかけたのだ、と。アディカリさんの同僚がEquidemのレポートで語った話では、査察官に会おうとして建設現場に隠れていた作業員は給料を減額されるか、強制送還されたそうだ。

「FIFAでは各種基準を設けているにもかかわらず、僕らは王族所有の大企業に存在を消されました」。アディカリさんは先週ネパールから、Equidemの翻訳を交えた動画チャットでローリングストーン誌の取材に応えた。「いつもバカにされた気分でした――行動を起こせば国に送り返されてしまう。とても怖かったです」

Equidemが8年かけて建設会社16社の労働条件を調査したところ(ローリングストーン誌が独占入手したこの調査結果は、後日公表された)ワールドカップのスタジアム建設の作業員は「自由を奪われ、行動を制限される」状況に置かれていた。カタール政府とFIFAが上辺だけの改革の裏で、「強制労働」を容認していたためだ。こうした事実が発覚するのと時を同じくして、名だたる人権団体や監視団体が活動警報を発信し――機密保持と匿名を条件に、数十人の移民労働者が内部告発した――原因不明の作業員の死や、補償を受けられずに家を追われた遺族への懸念を表明している。かたや今月ワールドカップが開幕すれば、カタール企業や協賛企業には最大170億ドルがもたらされることになる。

Equidem社の理事を務めるムスタファ・カドリ氏は、「これは現代奴隷制度の上に作られたワールドカップだ」と語る。

FIFAの広報担当者はローリングストーン誌に宛てた声明のなかで、サッカー統括組織としてカタール側と連絡を取り合いながらEquidemのレポートを検証する、と答えた。

本記事が掲載された後、カタール政府関係者の1人は声明を発表して、政府の「包括的労働改革政策」を称賛した。声明によれば、カタールは「先月に現地視察を3712回実施し、新たな労働法の認知向上に向けた全国キャンペーンも度々展開しています。我々の対策と厳重な取り締まりの結果、労働関連の違反件数は前年と比べて減少しました」

Equidemの調査結果を受け、カタールの運営レガシー最高委員会も声明を発表し、「できるだけ早い段階で基準に満たない業者を排除し」、「現在行われているデューディリジェンスの対象」として建設会社も含める基準の概略を説明した。一方で、「時に我が国の制度は、よからぬ考えをもつ業者に悪用されてきた」ことも認めた。記事掲載に先立ってHBK建設に細かい質問表を送信したが、広報担当者から返答はなかった。Equidemも調査にあたってHBK職員に再三コメントを求めたが、やはり返答はなかった。ローリングストーン誌がHBK社の法務部長に電話で接触してみたが、ノーコメントだった。Equidemのレポートによれば、言及されている建設会社16社のうち返答があったのは4社だけで、他はすべて疑惑を否定した。

Translated by Akiko Kato

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