ジャイルス・ピーターソンが自ら解説、ストリート・ソウルという80年代UKの音楽遺産

ジャイルス・ピーターソン(Photo by Benjamin Teo)

 
ジャイルス・ピーターソンブルーイの最新プロジェクト、ストラータ(STR4TA)が音楽シーンに与えたインパクトは想像以上だった。2人が昨年春にリリースした1stアルバム『Aspects』は、ブリット・ファンクという歴史の闇に埋もれたムーブメントを再浮上させることで、1970〜80年代におけるUK音楽史の文脈を書き換え、様々な謎を解くための鍵となった。ストラータ以前/以後で当時のポストパンクやニューウェイブ、UKレゲエ、ネオアコ、アシッド・ジャズに対する認識が変わった人も少なくないだろう。

そのストラータが1年半後に再び動き出した。再びブリット・ファンクを取り上げているが、今回は少しサウンドが変わってきている。2ndアルバム『STR4TASFEAR』で大きなトピックとなっているのは「ストリート・ソウル」だ。前回のインタビューで、ジャイルスはこんな話をしてくれた。

ジャイルス:1978年から1982年までがブリット・ファンク黄金期。1982年になってドラムマシンが使われ始めて、そこで全てが変わったんだ。フリーズはアーサー・ベイカーと「I.O.U.」を制作し、ハイ・テンションは「You Make Me Happy」でドラムマシンを使用した。そこでストリート・ソウルが生まれたんだ。ストリート・ソウルとはブリット・ファンク、レゲエ、ラヴァーズ・ロックをミックスしたものだね。

彼の発言どおり、ストリート・ソウルを踏まえた『STR4TASFEAR』では、いくつかの曲でドラムマシンが使われている。前作『ASPECT』で聴かれたような生々しく荒っぽいベースラインを軸にしたファンクだけでなく、TR-808のリズムが際立つクールなサウンドが加わっているのが本作の特徴だ。



ストリート・ソウルという概念もまた、80年代のイギリスを読み解くための重要なピースのひとつ。アシッド・ジャズやUKソウル、グラウンド・ビート、ラヴァーズ・ロックの間にこの言葉を挟むと、様々なものが繋がり、一気に視界が開けてくる。だからこそジャイルスは、このジャンルを今こそ再考しようとしているのだ。

さらに『STR4TASFEAR』には、アシッド・ジャズ世代にはお馴染みガリアーノのロブ・ギャラガーやヴァレリー・エティエンヌ、オマーに加えて、来日公演も盛況だったUK新世代のエマ・ジーン・サックレイ、アメリカからはシオ・クローカーらが参加。80年代サウンドへのオマージュが核にありつつも、それを新旧様々な世代がプレゼンテーションすることで、実にオープンな作品になっている。

今回もストリート・ソウルにまつわる話を中心に、UKの音楽を読み解くためのヒントをジャイルスに語ってもらうことに。さらに記事の後半では、日本のレコードに対する好奇心や、先日亡くなったファラオ・サンダースについても掘り下げている。


ストラータ、左からブルーイとジャイルス・ピーターソン(Photo by Alex Kurunis)


―前作『Aspect』のリリースにより、ブリット・ファンクの再発見・再評価を促し、UKの黒人音楽に対する新たな視点を提示したわけですが、その反響や手応えはどうでしたか?

ジャイルス:あの時期(1978年〜1982年までのブリット・ファンク黄金期)に焦点を当てたことでいい貢献ができたと思う。個人的には、(アルバムが)様々な世代の人たちにリーチできたことが嬉しかった。エマ・ジーン・サックレイのようなアーティストが僕たちに連絡をしてきてくれたんだ。彼女は『Aspect』がどれだけ重要な作品であるかというのを伝えてくれて、次のアルバムに参加したいと言ってくれた。それはとてもポジティブな反応だったね。それから、新しいアーティストやグループで、ブリット・ファンクっぽいサウンドの人たちが出てくるようになったような気がする。

―前作『Aspect』ではブリット・ファンクのサウンドが中心でしたが、今回の『STR4TASFEAR』ではその路線を引き継ぎつつ、少し先の時代に進んだような気がします。アルバムのコンセプトについて教えてください。

ジャイルス:今回のアルバムでは、1981〜82年あたりの時期から入りたかった。その翌年から、TR-808というドラムマシンが使われ始めるようになるわけだけど、808の登場によるブリット・ファンク・ムーブメントの成長を辿りたかったんだ。そしてストリート・ソウルを経由して、アシッド・ジャズやレア・グルーヴを経て、現在に至るまでをカバーしている。つまり、UKやUSから生まれたジャズ・ファンクの新しいサウンドをやっていて、そこに様々な時代の、様々なアーティストたちに参加してもらうことができた。オマーやヴァレリー・エティエンヌは2000年代(のアシッド・ジャズ)を代表する人たちだし、ピーター・ハインズは今回、ストリート・ソウルの曲でキーボードを演奏していて、過去にはアトモスフィアやelite recordsのアンディ・ソワカと仕事をしてきた人物だ。さらに今回は、エマ・ジーン・サックレイやシオ・クローカーといった最近のアーティストたちにも参加してもらっている。だから今回のアルバムは、リスナーを(ブリット・ファンクの時代から)現代まで連れていくためのプロジェクトだったんだ。

Translated by Emi Aoki

 
 
 
 

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