さかいゆう & origami PRODUCTIONSが語る、シティポップ再解釈と「楽しい同窓会」

さかいゆう & origami PRODUCTIONS(Photo by Mitsuru Nishimura)

 
さかいゆうによるキャリア初のカバーアルバム『CITY POP LOVERS』が11月30日にリリースされた。タイトルからも分かるように本作は、このところ再評価が極まった感もある1970〜1980年代のシティポップがテーマ。しかも山下達郎「SPARKLE」や鈴木茂「砂の女」、竹内まりや「プラスティック・ラブ」など定番中の定番を、なんの衒いもなく取り上げている。

しかしながら、OvallやKan Sano、Michael Kanekoら、さかいと深い縁のあるorigami PRODUCTIONSの面々が全面的に参加した本作は、トレンドに乗じた安易な企画物とは一線を画す、こちらの想像を遥かに上回るクオリティに仕上がっており、彼らのファンもシティポップ愛好家も必聴だ。そもそもトレンドなど「どこ吹く風」で、好きなものをマイペースに追求してきたさかい。今、このタイミングで盟友たちとシティポップに向き合ったのは、どんな経緯があったのだろうか。本人はもちろん、origamiのアーティストも参加した総勢8名の座談会で制作エピソードについて話してもらった。

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『CITY POP LOVERS』全曲トレーラー

─今回、さかいさんが初のカバーアルバムを作ろうと思った経緯と、そのテーマとして「シティポップ」を選んだ理由をまず教えてもらえますか?

さかいゆう:実は今作のタイトルに「シティポップ」というワードを入れるの、最初は躊躇したんですよ。ここでカバーしているアーティストたちは、もしかしたら「シティポップ」などと呼ばれたくないかもしれないので。とはいえ、自分の中で「シティポップ」には明確な定義があるんです。

─というと?

さかい:シティポップというのは、多くが1970年代後半から1980年くらいに生まれたいわゆる「おしゃれな音楽」じゃないですか。それより以前にあったのはフォークミュージック。戦争が終わり、高度経済成長期に突入する一方でベトナム戦争や安保闘争など世の中が殺伐とする出来事が増え、音楽もメッセージ性の強いものが多かったと思うんです。そんな時代の空気に疲れてしまった人たちの、心を癒す音楽として生まれたのが「シティポップ」だったのではないかと。おしゃれで耳心地が良くて、生活に一瞬にして溶け込んでいくんだけど、何度聴いても飽きない上に、心を癒し生きる希望を与えてくれる。とりわけ都会に生きる人たちの心を支える音楽のことを、シティポップと呼んだのだと思います。

アルバムタイトルをつけるときには色々な意見があったのですが、『CITY POP LOVERS』だったら自分自身のことであり、シティポップが好きな人、好きだった人、これから好きになっていく人にも向けた、自分なりに思い入れがもてそうなタイトルだなと思ったんです。

─都会に生きる人々の癒しになっていたシティポップは、今のこの殺伐とした時代の中でもきっと必要とされ、力を持ち得るはずだという気持ちもありました?

さかい:それもあります。それにシティポップとは、「日本人にしか書けない洋楽」のことだったと思うんですよ。アメリカのAORやファンク、ソウル、イギリスのブリティッシュポップに影響を受けてはいますが、それらともまた一味違う。僕はよく「芸術的職人芸」という言葉を用いるのですが、シティポップにもそれを感じる。要するに、職人的技術を駆使して「芸術」を作るようなところが日本人らしいなと思うんですよね。



─今作は「さかいゆう & origami PRODUCTIONS」名義で、origamiのアーティストと本格的にタッグを組んでいます。

さかい:origami代表の対馬芳昭さんにはインディーズ時代からお世話になっていますし、いつか一緒にお仕事する日が来たらいいな、アルバム1枚一緒に作れたらいいなとずっと思っていたんです。機会を伺いながら、かれこれ15年くらい経ってしまった。でもカバーアルバムだったら、僕を含めメンバーそれぞれが曲に対し、客観的に向き合えると思ったんですね。僕自身を料理してもらうよりも、それぞれの解釈を持ち寄りながら、対等な立場で作品を作りやすいかもしれないなと。

─origamiのみなさんは、さかいさんに対してどんな印象を持っていますか?

mabanua:テクニック的な面でも勉強になることが多いけど、それ以外の部分も持ち合わせている人ってそんなに多くなくて。大抵の人は、上手いんだけど面白味がなかったり、面白いんだけど技術が追いついていなかったりするんですよ。そこのバランスってすごく重要な気がしているんですけど、とにかく(さかい)ゆうさんは「バランス感覚に長けた人」という印象が以前からありましたね。

Shingo Suzuki:僕はゆうくんとは結構長くて。プロデュースをさせてもらったり、ツアーに参加させてもらったりしたことがあるんです。とにかく一緒にいると楽しい人(笑)。「音楽は楽しくあるべきだな」ということを彼から学んだし、会うと常に音楽や楽器の話ばかりする「音楽バカ」でもあって。一旦話し出すと尽きないところも魅力ですね。

関ロシンゴ:僕、ゆうくんと知り合う前からライブを観に行っていたんですよ。吉祥寺の「Star Pine’s Cafe」や、青山の「月見ル君想フ」とか「Plug」とか。常に超満員で、後ろの方で待っていると第一声が聞こえた瞬間にふわっと体が軽くなるような歌声で。今日、久しぶりにみんなでセッションしたんですけど、そういうエバーグリーンな歌声が、さらに増してきているなと思いました。


左からShingo Suzuki、さかいゆう、mabanua、関ロシンゴ(Photo by Mitsuru Nishimura)

Kan Sano:僕はピアニストなので、ピアニストとしてのさかいゆうさんの凄さを、一緒に演奏していてすごく感じます。歌がめちゃくちゃ上手くて、ピアノもめちゃくちゃ上手い。個人的に、いわゆる「ピアニスト」の弾くピアノよりも、シンガーが弾くピアノの方が好きなんですよ。その人の持つキャラクター、声やリズム感、歌い方と共通しているものがピアノの演奏にもあって。さかいさんのようなグルーヴをピアノで出せる人は、日本ではなかなかいない。そういうピアノ奏者と一緒に演奏しているとめちゃめちゃ楽しいですけどね。

Michael Kaneko:ゆうさんには自分の作品にも参加してもらったり、プライベートでもすごく仲良くさせてもらったりしていて。そばで見ていると、彼の性格が音楽にも反映されている気がしますね。一緒に演奏していても、とにかく楽しくて遊び心たっぷりで、周りのみんなを本当に楽しませてくれる。その反面、めちゃくちゃ職人気質のストイックなところもあるんですよね。マバさん(mabanua)も言ったように、そういう絶妙なバランス感覚を持った人だなという印象です。


左からHiro-a-key、Michael Kaneko、さかいゆう、さらさ、Kan Sano(Photo by Mitsuru Nishimura)

Hiro-a-key:彼は「遠い親戚」みたいな感じ。15年くらい前によく渋谷でジャムセッションをやっていて、僕は半年くらい遅れてそのシーンに入っていったんですけど、当時はゆうくんとタケオくんという子がいて。二人が「Just Two Of Us」を歌っているのを聴いた時の感動を今でも覚えていますね。「あの世界に僕も飛び込みたい」って。歳は一つしか違わないし、誕生日も1日違いですけど、でもシーンにおいては先輩。今回origamiを通してこうやってアルバムに参加できるのは感慨深いものがありますね。愚直に音楽を続けてきてよかったなと。

さらさ:私はセッションから音楽をスタートして、高校生の頃にゆうさんのライブを観に行って。さっきせっきーさん(関ロ)もおっしゃっていましたが、ゆうさんが歌い始めたその第一声でめちゃめちゃ泣いてしまって。何があったのか自分でもよく分からなかったんですけど(笑)、それがすごく記憶に残っているんです。その後こうやって自分もミュージシャンになってorigamiの姉妹レーベルASTERIに入って、このお話をいただいた時に、ずっと尊敬していた大先輩なので、皆さんと違ってこれで初めてゆうさんとお会いしたので、新鮮に「びっくり」の方が大きかったですね。

 
 
 
 

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