作曲家・澤野弘之が様々なボーカリストを迎えて楽曲制作を行うプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]が5枚目となるアルバム『V』をリリースした。これまでの作品とは異なり、各楽曲の尺がグッと短くなり、その分、歌メロがより前に出てきている印象で、澤野楽曲の新たな一面を堪能できる内容になっている。【動画を見る】「澤野弘之 LIVE [nZk]007」今回は、澤野が音楽の道を志すきっかけとなったアーティストASKAとのレコーディングにまつわるエピソードを含めた新作の話だけでなく、自身が劇伴を手掛けたTVアニメ「86―エイティシックス―」、好きなロックボーカリストについてなど、多岐にわたって話を聞いた。澤野弘之という作家の人間性が垣間見えるインタビューになっている。
―澤野さんにとって2022年はどんな1年でしたか?去年は[nZk]も劇伴の活動もやっていたんですけど、特にプロデュースを手掛けるSennaRinというボーカリストがデビューしたのと、NAQT VANEというプロジェクトがスタートしたことは自分にとって大きかったですね。これを2023年にどうやって広げていくのかということをすごく考えた年でした。
―新しいことを始めたいというモードになったんですか?もともと[nZk]はスタートしたときから常にいろんな人とコラボしていくという活動をしていたんですけど、自分的にはひとりのボーカリストにいろんな曲を書いていくということもやりたいとずっと思っていたので、自然とそういう新しいことにつながったのかもしれないですね。
―プロジェクトが増えると大変じゃないですか?あはは! 劇伴もやって[nZk]もやってとなるとたしかにそうですね。でも、基本的にはちゃんと音楽に集中できるようなスケジュールを組んではいるので、ものすごく詰め込むようなことはしていないし、今のところは楽しんでやれてます。
―「この曲をどのプロジェクトに振り分けようか……」という悩みも出てきそうな。あります。最初から「このプロジェクトのためにつくろう」って決めてる場合は気にならないんですけど、どれのためにということを考えないで曲をつくっていることもあるので、そういうときは悩みますね。なので、それはタイミングというか、「このプロジェクトで何か出せないですか?」と言われたときに合わせて展開していけばいいのかなと思ってます。
―最新アルバム『V』にはTVアニメ「86―エイティシックス―」に提供した楽曲が3曲収められています。僕、このアニメにめちゃくちゃハマりまして。濃い内容でしたよね。
―「86」に限らず、ご自身が劇伴を手掛けた作品のオンエアって観ていますか?自分の音楽がどう使われているのかなっていうのを気にしながら観てますね。
―観ているときってどういう気持ちなんでしょう。もちろん、物語に入り込むことがまったくないわけではないんですけど、自分の楽曲がどう使われているのか気になってしまうので、どうしてもそっちに意識がいっちゃいます。なので、一般の視聴者の方と同じように客観的に作品を観られるようになるのって時間が経って落ち着いてからなんですよね。こういう言い方をすると語弊があるかもしれないですけど、放送されてるときは物語に集中できてないですね。
―普段、劇伴をつくるときは監督からオーダーがあるんですか?そういうこともあるし、メニュー表を見て、「この曲にはこういうサウンドがいいのかな」って考えたり。“こういうサウンド”っていうのも、過去に自分がつくってきた曲を思い浮かべることもあれば、「あの映画のあのサウンドがカッコよかったから、今回この作品でトライできないかな」っていうところからスタートすることもあります。
―メニュー表というのはなんですか?30曲分必要だとか、誰々のテーマが必要だとか、そういうことが書いてあるものですね。
―ああ、なるほど。そのメニュー表に従ってつくった曲が想定していたのと違う使われ方をすることはありますか?当初の予定とは違うところで使われることはありますけど、僕はそこまで気にならなくて。打ち合わせをしているときも自分から言っちゃってますし。「このメニューに合わせて曲はつくってますけど、これをこっちに使っても構わないです」みたいな。だから、「あのシーンじゃないじゃないか!」みたいなことはよっぽどな事がない限りないですね(笑)。