マネスキンが語る挑戦と現在地、『RUSH!』で更新した4人のロックンロール

マネスキン(Photo by Ilaria Ieie)

 
先日のアルバム全曲解説に続いて、3rdアルバム『RUSH!』を送り出したばかりのマネスキンのインタビューをお届けしよう。メンバーの中でも最も饒舌なヴィクトリアが体調不良で欠席という状況ではあったものの、3人の男性陣だけで、ブレイク後の心境からアルバム制作のプロセス、そして日本の想い出までたっぷりと語ってくれた。

そんな彼らは2023年も大忙しだ。ご存知の通り、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロをゲストに迎えた最新シングル『GOSSIP』でもうひと盛り上げしてから『RUSH!』をリリースし、このあと最優秀新人賞にノミネートされている第65回グラミー賞授賞式に出席。ウェット・レッグやアニッタと賞を争い、2月末には昨年スタートしたLoud Kidsツアーを再開する予定で、どんどん新たな日程を積んでいる。本人たちも話している通り、『RUSH!』はライブでポテンシャルを全うしそうな曲を満載しているだけに再来日を期待せずにいられないが、それまでの間、この意欲作をじっくりと楽しみたい。




―3rdアルバム『RUSH!』のリリース、おめでとうございます。ずばり、アルバム制作は楽しかったですか? それとも辛かったですか?

ダミアーノ:楽しくもあり辛くもあったよ。毎回ニュー・アルバムの制作にはハードな部分がある。それまでに自分たちがやってきたことを振り返って、それを踏まえてもっと優れた作品を作り、かつ何か新しいことを試みようとするわけだからね。まず色々熟考する必要があって、当然ながら困難が伴う。と同時に、曲を作る過程で以前とは異なるインスピレーションを探して、自分たちの体験を深く考察する作業はすごく楽しいし、刺激があるんだ。だからどちらも該当するけど、楽しいほうが少し勝っていたのかな。

―アルバム制作に着手するにあたって、4人でどんなことを話しましたか? 「こういうアルバムにしたい」というヴィジョンはありましたか?

ダミアーノ:そこがやっぱり難しいところで、僕ら4人はこうして一緒にバンドをやっていて、ひとつのユニットとして活動しているけど、それぞれが全然違う個人の集まりでもある。各自が持っている音楽的なアイデアも、まったく異なるんだよね。だから今回は敢えて、4人が共有するエリアを掘り下げるのではなくて、逆に4つの個性を讃えて強調するというアプローチを選んだ。つまり、全員が気に入るようなものを絞り込んでいくよりも、例えばある曲ではトーマスのテイストを掘り下げて、別の曲ではイーサンのテイストを掘り下げて……というように、全員の異なるテイストを含んでいるんだよ。

―なるほどね。今回はマックス・マーティンとのコラボレーションが大きな話題になっていますが、半数の曲をマックス及び彼の周辺のプロデューサーたちと作り、残る半数は、最初の2枚のアルバムを一緒に作ったファブリツィオ・フェラグツォと引き続き共同プロデュースしています。こういう二本立てのアプローチを選んだ理由は?

トーマス:やっぱり僕ら自身がこれまで色々新しい体験をしてきたし、アルバム制作においてもたくさん新しい実験をしたかったんだよね。それでLAに滞在して、マックスと一緒にまさしく実験をあれこれやってみたんだ。で、複数の人とコラボして色々と異なる方法で曲を作れば、今までにはなかったサウンドが自然に生まれるし、バリエーションが広がる。最終的にはさっきダミアーノが触れたように、すごく多様なサウンドを網羅したアルバムに仕上がったよ。

―そもそも誰がマックスとコラボしようと提案したんですか?

ダミアーノ:マックス本人だよ(笑)。彼は僕らが初めてLAでやったライブを観に来て、すごく気に入ってくれて、一緒にやろうって誘われたんだ。それで試験的なセッションの場を持って様子を見たんだけど、うまくいきそうな手応えを得て、アルバムでも彼とがっつり組もうという話になったのさ。


マックス・マーティンが作曲/プロデュースで携わった楽曲のプレイリスト

―マックスは、あなたたちからどんなことを引き出してくれたと思いますか?

ダミアーノ:まず僕が思うに、マックスについては誤解されている部分が多々あるんじゃないかな。というのも彼はグラムロック・バンド出身だから、もちろんポップ・ミュージックに精通しているわけだけど、それと同等に、バンドで作る音楽が、そしてロックンロールがどういうものか、知り尽くしている。話が完璧に通じるんだよ。とにかく素晴らしいプロデューサーだし、ジャンルなんて重要なことじゃない。重要なのは、その時々に向き合っている音楽そのものであって、コラボしているアーティストと同じヴィジョンを分かち合っているのか否かということ。僕ら自身も、今はロックンロールを主にプレイするバンドなわけだけど、日々色んなことに影響を受けるし、この先永遠にロックンロールだけを鳴らすかどうかも分からないからね。ミュージシャンとして腕を磨けば磨くほど、より多様なジャンルと多様なタイプの音楽を取り入れて曲を作ることが可能になる。要するに、それが今回のアルバムを貫く基本的な考えだったんだよ。自分たちが身に付けたあらゆるスキルを、フルに活用するってことだね。

―曲によっては、売れっ子のジャスティン・トランターを始め外部のソングライターと曲作りを行なっていますね。長年4人で音楽を作ってきたあなたたちの場合、外部の人を迎え入れることに抵抗はありましたか?

ダミアーノ:やっぱり抵抗はあったから、共作することを決断する前に、メンバーで話し合ったよ。ものすごく大きなステップだとは言わないけどね。共作は、以前から挑戦してみたかった新しい試みのひとつで、特に僕の場合、作詞や作曲を生業としていて長いキャリアを持つ人たちと共作するのは、まるで学校に通っているかのような気分だった。ただ、この学校は子どもの時に僕が通った学校とは違って、すごく楽しかった(笑)。たくさんのことを教わったし、彼らと2カ月くらいコラボしてみて、以前より遥かにいいソングライターになったと実感しているよ。それに、英語は僕の母国語じゃない。そりゃ、1年前に比べたらずっと上達したはずだけど、今もまだ、英語という言語への理解を深めて、自分なりの英語によるソングライティングの形を模索中だと思っている。そういう意味でも、言葉のチョイスだったり、ひとつのアイデアから曲を膨らませていく方法だったり、これまでに僕がやっていたやり方とは異なるアプローチを学んだよ。

イーサン:ソングライティングって、ひとつのトータルなプロセスだからね。

ダミアーノ:うん。

トーマス:僕も、誰かと1曲仕上げるたびに、何かしら新しいことを学んだよ。みんなアプローチが異なるし、そこが一番クールな部分だと思う。

イーサン:今回のアルバム制作で僕が学んだことは、曲を一緒に書く人たちとたくさん話をすること。それがいかに重要なのか思い知らされたよ。マックスとのセッションでも、例えば2時間くらい雑談に費やして、そのあと作業を始めたら、ものすごく自然に曲がまとまったんだ。そうやってじっくり話をしないと、心がこもった音楽を作るために必要なケミストリーを醸成できない。重要なのは相手とのケミストリーだからね。たくさんの会話があれば、コミュニケーションがより円滑になるし、コラボ相手を知ることができる。そして相手をよく知ることによって、音楽作りもスムーズになるんだよね。そういうところが素晴らしくて、僕には興味深かったよ。

ファブリツィオ・フェラグツォ(写真中央)とマネスキン

―他方のファブリツィオは、デビュー当時からバンドに寄り添ってきた人です。彼とバンドのケミストリーを、どのように表現しますか?

ダミアーノ:彼は5人目のメンバーだよ。

イーサン:その通りだね。

ダミアーノ:音楽的な面でも、そのほかの面においても、信頼関係が確立されている。

トーマス:ファブリツィオのキャラは、このバンドにとってすごく重要なんだよ。ほら、「君がプロデューサーで僕らがバンド」っていう分断された関係じゃない。ソングライティングの段階から5人の間にコネクションがあって、そこはバンドにとって本当に大切なんだよね。そして僕らは彼のことを知り尽くしているし、彼も僕らのことを知り尽くしているし。

イーサン:ファブリツィオは、一番最初から僕らのポテンシャルを信じてくれた人なんだよ。しかもものすごく深い部分でね。

―スウェーデン人であるマックスやラミ・ヤコブ、ジャスティンのようなアメリカ人、そしてイタリア人のあなたたちとファブリツィオ……と、色んなバックグラウンドの人たちがコラボしていて、いい意味でのカルチャー・クラッシュは起きましたか?

ダミアーノ:うんうん(笑)。間違いなくカルチャー・クラッシュはあった。北欧の人たちはものすごく系統立ったやり方をするんだよ。特にアメリカ人と比べると、音楽の作り方がまったく違った。だからこそ、スカンジナビアとアメリカいうふたつの世界の組み合わせは絶妙だったと思う。片方は技巧的かつ合理的で、もう片方は直感ベースで、パーフェクトな組み合わせだよ。しかも、そこに僕らのイタリアン・スパイスが加わるわけだからね。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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