フォンテインズD.C.来日直前インタビュー 怒涛の一年とライブアンセム、アークティックとの共演

フォンテインズD.C.(Photo by Eimear Lynch)

 
2月17日に大阪・梅田 CLUB QUATTRO、18日に東京・Spotify O-EASTにて初来日公演を開催するフォンテインズD.C.(Fontaines D.C.)。ライターの天井潤之介による最新インタビューを、秘蔵ライブ写真を交えながらお届けする。

【写真ギャラリー】フォンテインズD.C.の秘蔵ライブ写真(全22点、記事未掲載カット多数)

「Best Band In The World」――そんな誇張じみて聞こえるNMEの喧伝も、それがフォンテインズD.C.についてであるならば話は別だ。事実、2019年のデビュー・アルバム『Dogrel』からわずか4年足らずの間にかれらが描いてきた鮮やかな成長曲線は、まさに「世界最高のバンド」と称えられるそれにふさわしい。地元ダブリンのパブで産声を上げたポスト・パンクの急先鋒から、全英を制するアリーナクラスのギター・バンドへ。ブラック・ミディらサウス・ロンドンの俊英と肩を並べるインディ・ロックのニューカマーから、フー・ファイターズやThe 1975と賞を競う「ロック」のホープへ。そして2020年の2ndアルバム『A Hero’s Death』によってU2やシネイド・オコナーに続くアイルランド出身のグラミーノミニーとなったフォンテインズD.C.は、アンダーグラウンドやローカルなシーンからの支持を失うことなく、いよいよグローバルな成功に手中に収めようとしている。昨年リリースされた最新アルバム『Skinty Fia』は、そうした上昇気流のなかでかれらが迎えた最初の到達点を意味する作品といっていい。

そんなフォンテインズD.C.の初となる来日公演が目前に迫っている。テクスチャーを意識した音作りやエレクトロニックなアプローチを取り入れるなど音楽性が押し広げられたギター・ロック・サウンドは、ライブのステージでどう展開されるのか。「アイルランド人としてのアイデンティティ」と向き合い、バンド像を再定義した最新アルバム『Skinty Fia』をへてかれらが立つ現在地、いまのモードについて、グループを代表してドラマーのトム・コールがメール・インタビューで答えてくれた。この夏にはアークティック・モンキーズとの全米ツアーも決定したかれらの生の姿を、ぜひその目に焼き付けてほしい。



―2022年はフォンテインズD.C.にとってどんな一年でしたか? ニュー・アルバム『Skinty Fia』のリリースがあり、またパンデミックやロックダウンによる制限がなくなる中でツアーやフェスティバルが行われるようになるなど、バンドがデビューしてから積み上げてきたものの成果を、さらなる大きな形で、よりダイレクトに享受できた一年だったと想像しますが。

トム:2022年は怒涛の一年だったね。4月にレコードをリリースしたし、おそらく今までで一番タイトなツアースケジュールだった。多くのフェスにも出演して、思ってもみない場所にも行くことができた。大胆な1年だったけど良い経験になったよ。すべてを振り返るには時間がかかりそうだな。


Photo by Eimear Lynch

―そうした中で、『Skinty Fia』を通じて自分たちが達成し得たもの、あのアルバムによって自分たちにもたらされたものについて、リリースから少し時間がたった今、どんな手応えをあらためて感じていらっしゃいますか。

トム:去年1年間、自分たちが納得のいくプロセスで制作をしてきて、すべてが結実した感覚があるんだ。新たな音楽の在り方を開拓する中で、今回のアルバムを通して新たな繋がりができた。その点においてはかなり満足しているよ。正直、4作目のアルバムにして、自分たちに少し自信が持てるようになった。

―制作時やリリース直後は気づかなかったが、時間が経過し、ライブで演奏したり様々なリアクションが寄せられる中で『Skinty Fia』について気付かされたこと、発見したことなどがあれば教えてください。

トム:かなり不思議な現象だけど、「Roman Holiday」の曲の印象が2カ月ごとに一変するんだ。ある時は、オーディエンスを誘うようなドライブ感のある曲に感じたかと思えば、アメリカーナのチルソングのように感じる時もある。毎晩ずっと演奏して曲の世界に入り込んでいるから、きっと僕にスペクトラムの対極を見せてくれているんだろうね。



―『Skinty Fia』は、アイルランド人としてのアイデンティティと向き合うこと、すなわち自らのアイリッシュネスを再定義することが、大きなテーマの一つである作品でした。そうしたテーマ、問いに対して、アルバムを通じて考えを突き詰めた結果、あなたたちがどのような結論なり答えを手にしたのか、ぜひ伺いたいです。

トム:制作を始めた頃にはアイルランドを離れていたから、自分たちの居場所はそこにはないっていう感覚があったんだ。同時に、ルーツと繋がり続ける重要性も全員が強く感じていた。その気持ちが消えたことはないし、持ち続けるべきだと思っているよ。ただ、多くの場所を旅行する中で、アイデンティティの拠り所が一つしかないってどうなんだ?っていう疑問が芽生えたことも事実なんだ。

アイルランドとイギリスの歴史は、イギリスに暮らすアイルランド人として日常生活に重くのしかかる題材だけど、新しい場所で生活をするなら自分のカルチャーについて教えたり、話すことは大事だと思う。どんな題材であってもね。これは答えのない問いだけど、僕が大事にしてるのは、自分のルーツに対して自覚を持ち、誇りに思うことだよ。


Photo by Eimear Lynch

―例えば 「In ár gCroíthe go deo」は、コベントリーのアイルランド人家族が、亡くなった母の墓石にアイルランド語の墓碑銘を刻むことを、アイルランド文化の表現とテロリズムを安易に結びつけてイングランド国教会が拒否したエピソードに端を発した楽曲です。実際にインパクトの大きな出来事だったと思いますが、この楽曲に対して興味深いリアクションはありましたか?

トム:キーン一家が直面した事件は、ロンドンに移住したアイリッシュ人の一人としてショックだった。1950年代の事件のように聞こえるけど、最近の事件だということが悲しくも衝撃だった。イギリスに根深くはびこっている、アンチ・アイリッシュの感情が未だに生き長らえているという事実にもね。

今年コベントリーでキーン一家に会えたことは幸運で、イングランド国教会との法に関わる争いの話を聞けたことは僕たちにとってインスピレーションになったし、心に残る出来事だった。これはキーン一家についての曲で、つまり僕たち自身についての曲ではないんだ。



―「I Love You」では、アイルランドの二大政党の失態と、地方の母子寮で起きた数十年に渡る悲惨な行為について、アイルランドを去(り、イギリスに渡)ることの後ろめたさを交えて綴られています。グリアン・チャッテンは「自分達が初めて書いた、あからさまなポリティカル・ソング」と話していましたが、この楽曲に対してはどんなリアクションがありましたか?

トム:歌詞の内容とテーマに重みのある曲だから、ライブセットの重要な局面で演奏するのは、オーディエンスへのちょっとしたサプライズになったかもしれないね。最近はライブの最後にこの曲を演奏するんだけど、必ずと言っていいほど会場のエネルギーが高揚していくのを感じられるんだ。確実に、特別な何かに変化していってる。それを体感できて興奮するよ。

Translated by Natsumi Ueda

 
 
 
 

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