ボーイジーニアス独占取材 世界を揺るがす3人の絆とスーパーグループの真実

左からジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダッカス、フィービー・ブリジャーズ(Photo by Ryan Pfluger)

 
今週末2月18日より来日ツアーが始まるフィービー・ブリジャーズと、ジュリアン・ベイカールーシー・ダッカスの3人によるスーパーグループ、ボーイジーニアス(Boygenius)がデビューアルバム『the record』を3月31日にリリースする。ニルヴァーナの表紙オマージュで大反響を巻き起こした、米ローリングストーン誌のカバーストーリーを完全翻訳。


アヴェンジャーズの出会いと再会

午前10時、マリブのズマ・ビーチは閑散としており、視界に入るのはハスキー犬1匹と腰まで海に浸かったサーファー1人だけだ。11月下旬の空はクレヨンで描いたようなセルリアンブルーで、完璧と言っていい日差しが降り注いでいる。それはまるで、トニー・ソプラノが夢に見た世界のようだ。もしかすると筆者は既に死んでいて、あの世で世界一エキサイティングなインディーバンドと対面しているのかもしれない。そう口にすると、ボーイジーニアスとして知られるジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・ダッカスの3人は声を上げて笑った。「煉獄でのランデブーってわけね」。現在27歳のダッカスはそう話す。「あなたの人生はどうだった?」

だが、紛れもなくこれは現実だ。当代屈指のソングライター3人からなるボーイジーニアスは昨年、デビューEPを発表した2018年以来初めてスタジオに入り、傑作と呼ぶにふさわしいデビューアルバムを完成させた。彼女たちは今、メディアの前で初めて同作について語ろうとしている。ビーチを歩く3人の姿は、「Anywhere for You」のビデオでのバックストリート・ボーイズを彷彿させる。大きく異なるのは、彼女たちには気負ったところがまるでないという点だ。

ブリジャーズ:昨日の夜、母さんが私の家で初めてのタトゥーを入れたんだ。

ダッカス:私は高校の時に、お母さんが入れるタトゥーをデザインしたよ。

ブリジャーズ:私、これからタトゥーを入れまくるつもりなんだ。

ベイカー(多くのタトゥーを入れている):ようこそ!

ダッカスは紫のフレームのサングラスと、白のコーデュロイのベースボールキャップを身につけている。砂浜に立つ現在27歳のベイカーは、黒のセーターの下にホットピンクのTシャツというルックだ。ロサンゼルスで生まれ育ち、近郊のカラバサスに最近家を買った28歳のブリジャーズは上下ともトレードマークの黒でまとめつつ、「ルーシーは私のことが好き、オヤジは私のことが怖い」とプリントされたベージュの野球帽を被っている。それはダッカスが2021年に発表した傑作アルバム『Home Video』に収録された、友人のろくでなしの父親を殺害する想像を膨らませる「Thumbs」にちなんでいる。


ボーイジーニアス 2022年11月29日カリフォルニア州ロサンゼルスで撮影
Photographed by Ryan Pfluger SUITS AND SHIRTS BY GUCCI. TIES BY VITOROFOLO.

ボーイジーニアスはクラシックロックが大好きだ。2021年にInstagram Liveでポール・マッカートニーと対話した時に、ブリジャーズは感動のあまり涙を流した。その一方で彼女たちは、ヒーローが常に男性であるという固定観念の打破に快感を覚え(バンド名はなすこと全てが褒め称えられる自信過剰な男性のリファレンスだ)、男性メンバーだけの有名なバンドと同じように扱われることを何よりも望んでいる。3人がソファに腰かけたデビューEP『Boygenius』のジャケットは、クロスビー、スティルス&ナッシュのデビュー作のそれと同じ構図だ。また本誌のカバーが、1994年1月号の表紙を飾ったニルヴァーナの写真のレプリカであることに気づいた人も多いだろう。

ベイカー、ブリジャーズ、ダッカスはそれぞれソロとして人気を得ているが、特にブリジャーズはパンデミックの最中にリリースされ、父親世代の耳にも届くほど話題を呼んだ2枚目のアルバム『Punisher』(グラミー賞4部門ノミネート)と、テイラー・スウィフト(今春のツアーでブリジャーズを前座に指名)、ポール・マッカートニー、ロード等のビッグネームとのコラボレーションを通じて大ブレイクを果たした。それでも、各自がクィアだと公言しているボーイジーニアスの3人は、全員が対等であることを常に重視してきた。フロントウーマンは存在せず、各自でアイデアを出し合い、全員が拒否権を有している。「互いに高め合うこと、それが私たちのアプローチ」とブリジャーズは話す。「全員がリードシンガーを務めて、その興奮を共有すること。結成当初から変わらないそのコンセプトが、このバンドの核になっている」

バンドの心臓であり、どこまでも感情的なボーカルで聴き手を圧倒するベイカー。メランコリックなメロディで恋の切なさを雄弁に物語り、ボーイジーニアスの魂を担うブリジャーズ。読み漁っているというロシアの小説に引けを取らないほどドラマチックな曲を生み出す、バンドのブレーンであるダッカス(ロックダウンの最中に読んだ『戦争と平和』を、彼女は「イケてる」と評している)。全員の共通の友人であるパラモアのヘイリー・ウィリアムスは、ボーイジーニアスについて「アヴェンジャーズのような存在」と語っている(彼女はバンドの写真撮影に乱入したのかもしれない)。


SUITS AND SHIRTS BY GUCCI. TIES BY VITOROFOLO. SHOES BY UNIF. BAKER’S RING BY BONY LEVY.

ダッカスとベイカーの出会いは、2016年にワシントンD.C.で行われたショーだった。「楽屋に行くとルーシーがいて、『ある婦人の肖像』を読んでいた」とベイカーは話す。「きっといい友達になれると思った」。両者とも宗教を重んじる南部の出身(ベイカーはテネシー州、ダッカスはバージニア州生まれ)だったこともあり、2人はすぐに打ち解けた。ダッカスは本の最後の白紙のページを破り、自分のメールアドレスを書き記した。ほどなくして2人は長いメールを交換し始め、おすすめの本を教えあったりするうち、互いに恋心を抱くようになったが、2人がそれを認めたのはしばらく経ってからだった。

ベイカーとブリジャーズが出会ったのはそれから約1カ月後だったが、2018年に3人のジョイントツアーが決定すると、彼女たちはショーのプロモーション用の7インチシングルをレコーディングするつもりでスタジオに入った。「1曲だけのはずが、結局6曲も録っちゃって」とブリジャーズは話す。「喩えじゃなくて、文字通り恋に落ちたってこと」

同年秋にリリースされたセルフタイトルのデビューEPは、ファンと批評家の両方に衝撃を与えた。3人が奏でる感情に満ちたギターミュージックは、(数世代前の)誰もがロックに夢中だった時代を思い起こさせ、その復権を予感させた。互いにタイプの異なる才能の持ち主でありながらも、バンドが鳴らす音楽に確かな一貫性が宿っている理由の1つは、彼女たちが根本的な部分で互いに共感し合っているからだろう。「3人とも、この仕事の楽しいとは言えない部分をよく知っていたから」とダッカスは語る。「ほとんどの人に理解してもらえないことを、私たちは共有することができた」。ブリジャーズは2人と一緒にいると、「自分が抱えている問題が気のせいなんかじゃないってことを認識できる」という。



3人がフルアルバムを完成させるまでには、4年の歳月を要した。その間、彼女たちはほぼ全てのインタビューでボーイジーニアスの再集結の可能性について尋ねられたという。その度にはぐらかしていた彼女たちは、海岸に打ち寄せる波の如く、今日この場でもそういった質問に対するお決まりの回答を繰り返した。「またチャンスがあれば」(ブリジャーズ)「予定は未定だけどいつかは」(ベイカー)「そうなりますように!」(ダッカス)

3月31日にInterscopeから発売される『the record』は、全員にとって初のメジャーレーベルからのリリースとなる。緊張感の漂うコード進行、ウィスパーからシャウトまで振れ幅の広いボーカル、年下のいとこがTikTokに投稿した口パク動画が目に浮かぶようなリリック(首にタトゥーの入ったカウボーイ、「冬のビッチ」と呼ばれる人物、階段から転げ落ちる誰か)まで、本作が2023年のベストアルバム候補であることに疑いの余地はない。

ベイカーとブリジャーズ、ダッカスは、それぞれソロとしてのキャリアと目標に集中することもできたはずだ。だが、3人はバンドとしてアルバムを作った。「このバンドでは、ソロで形にできないことを追求する自由が与えられていると感じる。私が信頼し、心から尊敬するソングライターたちとそれを共有できるから」とベイカーは話す。「そのことに、私は偽りのない誇りを持ってる」

ブリジャーズがこう付け加える。「私たちはお互いに夢中なの。2人と一緒にいる時、私は自分のことがより好きになれるから」

Translated by Masaaki Yoshida

 
 
 
 

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