マイ・ケミカル・ロマンス、2001年のバンド誕生秘話

マイ・ケミカル・ロマンス 2005年撮影(Photo by LARRY MARANO/GETTY IMAGES)

米作家のダン・オッツィが2000年代のパンク/エモ・バンドにフォーカスを当て、彼らのインディペンデント性やメジャーレーベルとの契約にまつわる話を盛り込んだ著作『Sellout: The Major-Label Feeding Frenzy That Swept Punk, Emo, and Hardcore (1994-2007)』。今回、同書からマイ・ケミカル・ロマンスに関する抜粋記事をお届けする。

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バンドの活動初期と2002年発表の1stアルバム『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』にフォーカスし、ニュージャージーのユニークな音楽シーンが彼らのサウンドの形成にどう影響したのか、そしてインターネットの無限の可能性が新たな音楽との出会いだけでなく、バンドとファンの関係性をどのように変化させつつあったのかについて、オッツィは独自の見解を示している。PUNKSPRING 2023でヘッドライナーを務めるマイ・ケミカル・ロマンス。彼らの原点(ルーツ)をあらためて多くの人に知ってほしい。

2002年、サラ・ルウィティンは母親が運転するトヨタCamryの助手席に座っている。Palisades Parkwayを走る車がスピードを上げるなか、彼女はまるでテストを控えている学生かのように、『All You Need to Know About the Music Business』と題された本のページを急ぎ足でめくり続けている。マイ・ケミカル・ロマンスのマネージャーである21歳の彼女は、バンドがレコーディングを行なうニューヨーク北部のNada Recording Studioに向かいながら、自分がいかに未熟であるかを痛感し始めていた。

ルウィティンがバンドのマネージャーになったのは最近の話だ。Ultragrrrlというユーザー名でAmerica Onlineを利用していた彼女は、同プラットフォーム上で知り合った音楽仲間たちとの交流を通じてそのきっかけを掴んだ。彼女がある日、ブラーやオアシス、レディオヘッド、プラシーボといったバンドのメンバーディレクトリを検索していたところ、MikeyRaygunという見慣れないユーザーのプロフィールがヒットした。そのアカウントの持ち主である17歳のマイキー・ウェイは、日中はスーパーマーケットのカート整理係として働いており、夜は両親と住む家のソファで寝ているという。おすすめのバンドについての情報や、含みのあるメッセージを交換し合う中で、ルウィティンは彼が頭が良く愉快な人物だと考えるようになった。数カ月間にわたるやり取りを経て、彼女は直に会おうと提案する。

「お互いの見た目は把握してなかった」とルウィティンは話す。「彼は『レオナルド・ディカプリオに似てるってよく言われる』って言ってたと思う。一応写真をもらってたけど、ぼやけてる上に顔が見切れてたの。彼と初めて会ったのは、ウエストヴィレッジのWest Fourth Street駅を出たところにあるスターバックスだった。彼はテキストやIMではすごくお喋りだったけど、実際に会ってみるとこっちが気を遣うくらいシャイで、同一人物だとは思えなかった」

無口ではあるものの、ウェイが野心家であることは明らかだったという。「一緒にHot TopicやVirgin Megastoreに行った時に、彼はこんなふうに話してた。『俺はいつか絶対に有名になる。雑誌の表紙を飾ったり、弁当箱に顔がプリントされたりするんだ』。その時点で既に、彼は明確なヴィジョンを持ってたの」

2人は互いに恋愛感情を抱き、数カ月の間交際していた。ウェイはPATHトレインでマンハッタンに向かい、ルウィティンは両親と住むニュージャージー州テナフライの家から長距離バスを利用した。「ニューヨークのあちこちの街角でイチャイチャしてた」と彼女は話す。ひたすらキスを交わすことで、ルウィティンは彼女が恋をしていたのは社交的なMikeyRaygunであるという事実から目を逸らしていた。「それに、彼はキスが上手だったしね」と彼女は話す。

そのチャーミングなキャラクターにはオンラインでしか会えないことを悟ったルウィティンは別れることに決めたが、友達としては付き合いを続けようと決めていた。彼女が音楽業界で働く方法を模索していた以降の数年間、ウェイからの連絡は途絶えがちだったが、2001年秋のある日の夜、彼女が両親の寝室でコンピューターに向かっていると、MikeyRaygunからメッセージが届いた。

「そこにはこう書いてあったの」と彼女は話す。「『兄貴と一緒にバンドを始めることにしたんだ。君には気に入ってもらえないだろうけど、すごくワクワクしてる』って」。ルウィティンはその音楽性について、彼が好きなバンドの曲を模倣したものだろうと予想した。「SFチックでフューチャリスティックな、ブリットポップっぽいやつだと思ってた」と彼女は話す。しかし、彼がMP3ファイルで送ってきた「Skylines and Turnstiles」「Cubicles」の2曲は、彼女が予想したものとはまるで違っていた。「私が普段聴いてるような音楽じゃないっていうのは合ってたけど、衝撃的だった。言葉で表現できない、本能のようなものを感じたの。エネルギーと興奮、思慮深さに満ちていて、私はすぐに夢中になった」

Translated by Masaaki Yoshida

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