女子大生が自分のディープフェイクポルノを発見、犯人は罪に問われず 米

DeepfakeポルノをテーマにしたSXSWドキュメンタリー『Another Body』のワンシーン(COURTESY OF ANOTHER BODY)

ディープフェイクで自分の顔をはめ込んだポルノ動画がネットに出回った経緯を突き止めた女子大生・テイラー・クラインさんを追った衝撃的なドキュメンタリー『Another Body』。ソフィ・コンプトンとルーベン・ハムリンが制作した同作品は、女性の同意なくディープフェイクポルノを作成する物騒な闇の世界を掘り下げている。

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テイラー・クラインさんは、知り合いにいそうなタイプの女性だ。エンジニア一家に生まれた数学が得意な工学部の学生。Facebookのフィードにはアイスクリームを食べる画像や勉強風景、大自然を楽しむ写真――他愛もない日常でいっぱいだ。母親の強い職業倫理をほめちぎり、学校のいいところを絶賛する動画からは彼女の人柄が伺える。「規則を破ったことは一度もないの。その後のことを考えるとものすごく怖くって」と彼女は説明する。「先生方も心配だったと思うわ、なにしろ中学生のころから大学のことを気にしてたんだから……12歳で、大学に入れるかどうか悩んでたのよ」。

大学4年生のある日、テイラーさんはFacebookで友人からメッセージを受け取った。「ごめんね、でもこれ見ておいた方がいいと思う」というメッセージの後に、Pornhubの動画のリンクが張ってあった。リンクをクリックすると、テイラーさんは驚愕した。自分と瓜二つの女性が、男性とセックスしている動画だった。ただし、実際にあった出来事ではない。テイラーさんの顔は、別の女性の身体に重ねられていた。ちょうどその頃、テイラーさんはInstagramで男性ユーザーからおかしなメッセージを受け取っていた。「最低女」呼ばわりされ、トーンもいつもより攻撃的だった。それで合点がいった。

「本当にもう……ポルノサイトで私を見つけた人たちがメッセージを送ってきてたんです。とにかく……最初は、自分の名前と顔が出ていたことがショックでした。学校や街の名前まで出ていたなんて、訳が分からない」と彼女は振り返る。「それによく見たら、動画は数千回も閲覧されていたんです」

テイラーさんは、SXSWでプレミア上映された警鐘を鳴らすドキュメンタリー『Another Body』の主人公だ。ソフィ・コンプトンとルーベン・ハムリンが制作したこの作品は、女性の同意なくディープフェイク・ポルノを作成する物騒な闇の世界を掘り下げている。専門家の推計によれば、インターネットに出回っているディープフェイクの90%がポルノ動画とみられている。

コンプトンとハムリンが制作したドキュメンタリーに出てくる「タイラー・クライン」は、被害者の実名ではない。動画に出てくる女性の顔も本物ではなく、俳優の顔をディープフェイクで重ねてある――わずかに残された被害者の匿名性を守るためだ。やがてタイラーさんはPornhubで自分のディープフェイク・ポルノ動画を「6~7本」と、xHamsterというアカウントに紐づいた動画を見つけた。動画はぞっとするコメントであふれかえり、タイラーさんは――すでに不安症と強迫性障害を患っていた――この中の誰かにつけ狙われるのではないかと考えた。

「いまだに自分の中で処理できずにいます。あまりにも混乱して、考えられない。まさにそういう状態です」 彼女は涙を浮かべながら語り、こう続けた。「ただもう感覚を麻痺させたかった」

「『なぜこんなことするの? 一体だれがこんなことするの?』と問い続けました」と本人。「誰かが私を罰しようとしているみたいな気分でした」

そこでタイラーさんは行動に出た。ドキュメンタリーには、彼女が地元警察に通報した時の録音音声が登場する。電話口の警察官は、具体的に何ができるか「確約はできない」が、折り返し電話すると告げた。数週間後、ようやく折り返しの電話があった。警察の話では、彼女の住む州には同意のないディープフェイクポルノを取り締まる法律がない以上、加害者にはああした行為をする権利があり、警察にはなすすべがないという。取り込まれているのが被害者の身体ではなく、顔だけなので、同意のないポルノを規制する法律にも該当しないというのだ。

Akiko Kato

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