殺人現場の新名探偵は昆虫? 海外で活躍する「法医昆虫学」の世界

活躍する「法医昆虫学」の世界(GETTY IMAGES)

日本では長年、警察犬が人よりも4千~6千も高い嗅覚を使って、遺体の発見や被害者、犯人の証拠品を特定するなど、事件の解決を手助けしてきた。しかし、そんな殺害現場で新たな証拠を見つけてくれる生物が米国を中心に活躍を見せている。それが「昆虫」である。死体の周りに集まる虫達は、病医学者よりも正確に「いつ死んだのか」「どこで死んだのか」を示してくれる。海外では裁判で重要な証拠としても活躍する「法医昆虫学」に迫る。

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法医昆虫学における一番の強みは「死亡推定時刻」の特定である。病理解剖より正確な死亡推定時刻で冤罪を防ぎ、真犯人を見つけ出すことができるのだ。

刑事ドラマやミステリーが好きな人なら「72時間」という時間は馴染みがあるのではないだろうか。これは死体から病理解剖で死亡推定時刻を特定できる限界の時間である。つまり病理解剖では死亡から72時間以上経過した死体については正確な死亡推定時刻の特定は難しい。この時間を突破するのが「昆虫」の存在だ。

人間の体は死亡したと同時に死後硬直が始まるが、この硬直が完全になるのに要する時間が72時間という時間である。病理解剖ではこの72時間の間の死後硬直の度合いから死亡推定時刻を割り出している。人間の死体は死後硬直と同時に腐敗も始まっていく。そしてこの腐敗を進める中心的存在が昆虫なのである。

死体は昆虫にとって絶好の住処である。死体に侵入した虫達が体の一部を餌として生活を始め、卵を生み、またそれが成長し巣立ち、次の昆虫たちがやってくる。こうして死体の環境は様々な昆虫達のサイクルによって絶えず変化を繰り返し、最終的に白骨化に至る。

「法医昆虫学者」はこの虫の成長サイクルの膨大なデータを使い、死体発見時の体内の状態と虫の成長サイクルを左右する死体発見現場の気温状況データを照らし合わせることで死後72時間の壁を突破し、より正確な死亡推定時刻を提示していく。このようにして「法医昆虫学」を使い特定された正確な死亡推定時刻は米国を中心に裁判の証拠として活用され真犯人の発見に役立てられている。

実際の例を科学雑誌Natureで紹介されている「昆虫法医学で解決された実際の事件」から見てみよう。11月の中旬アメリカの南東部で近くの一軒家から悪臭がすると警察に連絡が入った。通報を受けて警察が悪臭のする家へ到着し、捜索を行うと家の地下室から女性の腐敗した遺体が発見された。死体は死後72時間が経過しているだけではなく腐敗もひどく進んでおり、病理解剖で正確な死亡推定時刻を特定するのは難しかった。法医昆虫学者は遺体に付着していた昆虫と気温状況から死亡推定日は死体発見の28日前と結論付けた。警察は情報をもとに調査を開始し、すぐに28日前に被害者と関わりの持っていた容疑者を特定。容疑者は犯行を認め、犯行日は死体発見日から28日前であったことも告白。事件は幕を閉じた。昆虫が捜査の大きな手がかりを示し、真犯人発見に一役買った瞬間であった。

Rolling Stone Japan 編集部

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