三井律郎と岡村弦が語る、結束バンドの音楽

左から岡村弦、三井律郎(Photo by Mitsuru Nishimura)

TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」が大きな反響を呼んだのは、原作やアニメの素晴らしさもさることながら、結束バンドの音楽によるところも大きい。TV放映中から主題歌や劇中曲に注目が集まり、最終話と同時公開されたアルバムは各方面から熱烈に歓迎された。批評的評価と売上をここまで両立する作品は稀だろう。というわけで今回は、14曲中12曲の編曲を担当した三井律郎と、音楽ディレクターを務めた岡村弦に話を伺った。下北沢のギターロック、作品に寄り添う編曲など、大事な話が満載。お楽しみいただけると幸いだ。

【写真を見る】「ぼっち・ざ・ろっく!」の音楽を手がけた岡村弦と三井律郎

※この記事は現在発売中の「Rolling Stone Japan vol.22」に掲載されたものです。

キャラクターを具現化するアレンジ、作品に寄り添う曲作り

ー本日はとても貴重な機会をいただき幸いです。それではまず、結束バンドへの反響について伺います。ネットに上がっている感想は読まれていますか。

三井 はい。ある程度は読ませていただいてますが、もう逆に追いつけないくらいある(笑)。単純にうれしいですね。もちろん、作品が面白かったからだとは思うんですけど、音楽も一生懸命作ったので、こんなに評価していただけるのがうれしいですね。

岡村 そうですね。僕も同じ感じで、たまに見て「おー、すごい」というのが……年が明けても続いているのが驚きです。感想を見ていてうれしいのが、音楽から入っている人が少なからずいることですね。

ーはい。自分もまさにそうなんです。

三井 ありがたいです。

岡村 これってまさに、サブスクの時代の今でこそという気がしていて。僕も10年ほどアニメ系の音楽に携わっていますが、やっぱり今までは、アニメを見て良かったから音楽も聴くという流れだった。しかし今回は、話題になっているから音楽を聴いてみて、それが良かったからアニメも観るという流れや、めっちゃアルバム聴いてるけどアニメは観てませんみたいなことも(笑)。これって、少なくとも僕の経験では今までになかった現象で。そこは凄いなって思いますね。

ー本当に素晴らしいアルバムですので、今回はそこを掘り下げていければと思います。事前にいただいた資料には「“アニソン”にとらわれない、作中舞台の下北沢サウンド」と書かれていましたので、まずはそれについて伺いたいです。

三井 まずその“アニソン”との関係についてですね。もともと僕は「キャラクターを具現化する編曲」という感じで、この人たちが何を考えてどういうことをやるのかということを先に設定として作るんですけど、それ以外のところでは「アニソンを作る」という脳では全く作っていなくて。単純にアニメとの共通性でいけば、それぞれのキャラクターが好きそうなものや、原作にある幾つかのヒントからつまんでいく。例えば虹夏ちゃんはメロコアが好きとか、山田リョウは音楽的な知識があって機材オタクで自信家。喜多ちゃんは初心者でコード弾きに徹するというのが決まってて、まあ後藤は言わずもがなですが(笑)。そういうのを考える以外は、特にアニメを意識せず作りました。で、その「下北沢サウンド」というのは、舞台のモチーフとなった下北沢SHELTERとか、僕と弦さんがリアルタイムで共有してきた年代のその場にいたようなバンド。そういう文脈の先をその子たちが演奏するっていうことに、とにかくこだわって作りました。

ーアニソンとの距離の取り方というか、その要素を取り入れたりあえて取り入れなかったりというようなことはありましたか。

三井 何をもってアニソンと言うかというのがまずありますよね。

岡村 そもそもそんなにアニソンの人じゃないよね。

三井 僕、あまり知らないんですよ。もちろん、アニメの曲をレコーディングしたり自分のバンドの曲が採用されたりはありますけど。

岡村 そこに関して言うと、“アニソン”の定義自体が曖昧で。チャートの上位を占めるトップアーティストがアニメに提供している。それは近年いきなり始まったものじゃなく、それこそ『るろうに剣心』とか以前からあった流れなんですが、大きな違いが一つあって。今は、皆さんアニメにちゃんと寄り添った曲を作るんですよね。

ーあっ、まさにその通りですね。

岡村 何年か前にLiSAさんを担当していた頃から思っていたのが、曲調がどうとかよりも、世界観や歌詞がアニメの場面にリンクしているのが一番大事ということです。だから今回も、作詞の部分とか、劇中で流れる各々のシーンでこういう曲調がいいというのにはこだわっていますが、そこでいわゆるアニソンのフォーマットを踏襲したいとかいうことは、僕自身も一切入れずに作りました。

三井 リアリティについても。作中でやってる曲も、そこでメンバーが演奏する以外の音は無いとか。そうやって作品に寄り添うというか、こういう性格の人はこういうギターを弾きそう、というところだけものすごく突き詰めて作った感じですね。

ーなるほど。それでは「とらわれない」というのは、あえて距離を取りたいみたいなことではなく、まったく意識しなかったという……。

三井 はい。そういう頭がなかったというのが正解かもしれません(笑)。

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