台湾のバンド・ゲシュタルト乙女が語る、なぜ日本語で歌を書くのか

Photo by puppysara

台湾を拠点に活動するバンド、ゲシュタルト乙女。先日(5月20日)福岡で開催されたフェス『CIRCLE ‘23』に出演し、本日5月31日に新曲「窓」を配信リリース、そして6月からはクレナズムとdowntをゲストに迎えて大阪・福岡・東京を巡る日本ツアーを初開催する(東京はワンマンライブ)。

ゲシュタルト乙女が日本語で歌う理由――そこには、Mikan Hayashiの亡き母親への想いがある。その上で、ソングライターとして日本語でしか表現することのできないニュアンスがあることを発見し、それを活かすことで自身の感情を表現できるのだと語る。

今年1月にゲシュタルト乙女の初期メンバーであったKaiakiが脱退し、現在はMikanの1人で活動中。初の日本ツアー開催を前に、改めて日本にいる人たちへ向けて、Mikanの日本の音楽に対する想いと、メンバーの脱退や「塞ぎ込んでいた」という時期を経た今の心境を語ってもらった。自分を抑え込んでしまう考え方からも、過去の想いからも、さらには国境からも、Mikanは自身を解き放って「自分がまだ知らない自分」に会いにいこうとしている。あなたとともに。



―最初にお聞きしたいのはやはり「なぜ日本語で歌うのか?」というテーマで。過去のインタビューなどから「日本の音楽が好きだから」ということはもちろん理解しているんですけど、ゲシュタルト乙女を聴いていると、ただ「好きだから」とか、もしくは「日本で売れたいから」とかではなく、日本語で表現することがMikanさんの人生にとって欠かすことのできないライフワークになっているのだろうなと感じるんですよね。だからこそ、あえてそのテーマを深掘りさせてもらいたくて。もともとご両親が日本の音楽が好きで、昔から聴かれていたんですよね。

Mikan:そうですね。両親が日本へ短期留学をしたことがあって、私は小さい頃から日本の音楽やドラマとかの文化を取り入れた環境で育ってきました。母が運転してるときにもよく日本の曲が流れてたし、母はよく弾き語りで日本語の曲を歌ってたので。小さい頃は日本語がわからなくて「何だろうなあ」みたいに思ってたんですけど、大人になって「あ、母が歌っているのは日本語の曲なのか」とわかって興味が湧いて。音楽が好きだという感覚が芽生えたのも、母が日本語の曲を弾き語りしていたからだと思います。そこから高校2年生くらいのときに、高校生のうちに何か残しておきたいから自分の曲を作ってみようと思って、でも友達とかに歌詞の意味がバレたくなくて、日本語でずっと書いていて。中国語で書こうと思ったこともあるんだけど、どうしてもぎこちなくなっちゃって。日本語で歌詞にする方が自分の性格に合うし、慣れている感じがしますね。自分の心境を一番表すことができるんじゃないかなと、大人になってから思いました。

―そもそもご両親はなぜ日本の文化に興味を持たれていたのでしょうね。

Mikan:明確に聞いたことはないんだけど、アートが好きで。留学したときも、デザインとかアート系の学科に行ってました。憧れがある、という感じはしましたね。

―お母さんが聴いていた、もしくは歌っていた日本語の曲の中で、特にMikanさんの記憶に残っているものは?

Mikan:「ハナミズキ」(一青窈)、MISIAさん、DREAMS COME TRUE。あと德永英明さんが大好きで、毎回アルバムを買っているようでした。徳永さんのカバーで「雪の華」とか、いろんな名曲を知りましたね。

―プライベートなことに踏み込んでしまうかもしれないので、もし答えたくなかったら「答えたくないです」って言ってもらって大丈夫なんですけど、お母さんは亡くなられているんですよね。

Mikan:あ、そうですね。

―亡くなられたのは、Mikanさんが何歳の頃ですか?

Mikan:大学に入る前の夏休み。もう結構経ってますね。

―じゃあ、ギター持って歌い始めてから結構すぐだったんですね。

Mikan:そう。私がバンドを組んでいる姿を、母は見れていなくて。最近思うことは……自分が日本語の歌詞をずっと書いているのは何が原因なのかなって、自分の中で探ってて。母との繋がりをずっと保っていたいというのもあるんじゃないかなと、27歳になって改めて思うようになりました。5月5日がこどもの日で、自分の子どものときの写真とかを見ていたら、母との繋がりみたいなものが蘇ったというか。改めて、自分が日本語で歌詞にするのは母との繋がりがずっとあってほしいから、というのもあるんじゃないかなとは思いました。


幼少期の写真(提供:Mikan Hayashi)

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