ポスト・エミネム時代のエミネムのアルバムとは、どのようなものだろう? それは彼自身が直面している問題でもある。メジャー・レーベルからのデビュー(1999年の『ザ・スリム・シェイディLP』)から数年、2002年の映画『8マイルズ』の成功を経て、エミネムの時代精神の構築は完成した。ただの音楽界のスターではない。彼は文化的な強迫観念そのものだった。リリースされる新曲はどれも、芸術、モラル、人種、階級、セレブリティといったものに対する差し迫った疑問を提起するものだった。
 しかしこの5年、エミネムは面白みのない挑発や薬物中毒の告白ばかりの中途半端なアルバムをリリースし、それほど注目されなかった。彼の7枚目となるアルバム『リカヴァリー』で、エミネムは自分がスランプに陥っていたことを明かしている。その間、彼は何を見いだしたのか? そして、どのようにそれを乗り越えたのか? リル・ウェインとは違い、エミネムはいつもどこかに深い傷を負っている。しかし、このアルバムはここ数年の彼の作品のなかで最もカジュアルなサウンドだと言える。初期の自由奔放だった頃のサウンドを意識した曲が収録されている。そのリリックは、どこか間抜けで想像的であるのと同じくらい、暴力的で粗野でもある。
 ただ、以前の特徴を完全に捨ててしまったわけではない。彼は今でも元妻であり女神であるキムへの絶望的な愛のなかでもがいている。そしてまた、ライバルのセレブたちに借りを返すことに夢中になっている。「シンデレラ・マン」は、アルバムのなかで最も華やいだビートであるが、ポスト・グランジ・ロックのマイナー・キーや長音記号を多用したアルバム『アンコール』(2004年)以来のフォーマットに従っている。
 しかしながら、新たな発見もあった。エミネムのアルバムには女性的な部分はまったくなかったが、今回はピンクやリアーナとコラボしている。とはいえ、自分の心理的な迷宮の中に迷い込んでしまったような、神経症的な部分はそのままだ。今回のアルバムでは、幼少時のトラウマだけでなく、プロとしての嫉妬の目でありのままの自身を見つめ、さらに深く沈みこんでいる。最近はセラピーを楽しむ方法を見いだし、自分自身をあざ笑うことを覚えたようだ。
 エミネムはあと数年で40歳になる。歳を重ねるにつれ、より気難しくなっていくようだ、と感じる人もいるかもしれない。少なくとも彼自身はそれを認めている。「ラップ界で最も機知に富んだ、精神病患者」であることに満足しているようでもある。『理由なき反抗』やグレイト・サタン(大魔王)ほどセクシーな肩書きではないが、それでも十分だ。

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