『ル・ノイズ』は、ニール・ヤングがバンドを率いずに、彼自身とファズを最大限にかけたギター、そしてダニエル・ラノワによって操作されたエレクトロニクスだけを使った、8曲入りの新作アルバムである。その結果は、ここ10年間に生まれたエコー・オペラ『グリーンデイル』や、新しい燃料について歌った『フォーク・イン・ザ・ロード』を入れたとしても──ヤングのもっとも風変わりなスタジオ作品となった。
『ル・ノイズ』は同時に、ヤングが長年かけて制作した、もっとも入念で、自然なサウンドのアルバムでもある。ひとりのソングライターが、鮮明に浮かび上がる愛と恐れの混沌とした回想録を、自分なりに綴っているのだ。それはあたかも、ヤングが頭の中で最初に歌詞とノイズを聴いたのとまったく同じように、曲が生まれるその瞬間を聴いているかのようである。ヤングがアルバムの曲のほとんどを演奏している現在のツアーで、「俺はソロと呼び……彼らはアコースティックと呼ぶ」と書かれたTシャツを買うことができる。ラノワが雰囲気を高めたり壊したりしても、『ル・ノイズ』はやはりソロ作なのだ。
「ウォーク・ウィズ・ミー」は、メタリカの「デス・マグネティック」の鋼鉄のジャングルを掻き分けてやってきたかのように、強く主張するレイヤーで幕を開ける。最後の数分間の、ヤングが82年に発表したクラフトワーク風のお遊び『トランス』のように泥臭いギター・ドローンとビープ音は、クレイジー・ホースと91年に発表した『ウェルド』の、狂乱の終章へと雪崩れ込む。
 この曲の序盤、ヤングは<きみの愛を感じる/強い愛を/絶対的な愛への忍耐を>と、まるで彼の主題の振れ幅を試すように歌い、それは徐々に特定されていく。<一緒に旅した人たちを失った/魂と昔の友情が恋しい>。彼の歌声はドローンの中へと消えていくが、近年亡くなったベン・キースやラリー・“LA”・ジョンソンといった友人や共演者たちが、傷心のような騒音を通じて浮かび上がってくる。  『ル・ノイズ』の特徴は、休みを知らない鉄人がアイデアの追求に捕らわれ、自分の表現を形作ろうとしているところだ。2曲あるアコースティックギター・ソングのうちの1曲「ピースフル・ヴァレー・ブルーバード」は、インディアンの闘いから電気自動車に至るまでの、米歴史の詳細なレッスンである。けれどもある一行(“母親は叫び、すべての魂は失われた”)で、ヤングの歌声はピークに達して張り裂ける──衝動的で、感動的な一瞬だ。
「ラヴ・アンド・ウォー」で、ラノワの音処理によって浮き上がったヤングの疲れきった囁き声とアコースティック・ギターは、人々を惹きつけるロックの一番星への、不信感を露わにする。<愛と戦争について歌うとき/自分が何を言っているのかわからないんだ>と。が、すぐに信念が蘇る。彼は音楽を通して、前に進むしかない。<僕はまたひどいコードを弾いて、怒りながら歌う/それでも僕は、愛と平和について歌おうとしている>。
 簡潔に言えば、『ル・ノイズ』は諦めない男の音なのだ。

RECOMMENDEDおすすめの記事


MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE