あなたが想像していたのは、『アット・フォルサム・プリズン』? リル・ウェインの8枚目のアルバムは、彼がまだニューヨークのライカーズ・アイランドに収監され、銃器の不法所持による刑期の最後の数週間を務めている間にリリースされた。けれどもこれは砂にまみれた刑務所音楽ではない。ウェインが牢屋へ向かう前に残した『アイ・アム・ノット・ア・ヒューマン・ビーイング』は、スタートからパーティだ。レコードはウェインとドレイクがシンセにくるまった神経質なビートに乗せて、下品な自慢(と性的な蔑み)をするところから始まる。「俺は人間じゃない/月の仲間たちに向かって吠える」とウィージーはラップする。たとえリル・ウェインを閉じ込めることができても、彼の疲れきった魂は、天の川のどこかで漂い続けるのだ。
 アルバムにはラッパーの数あるミックステープの、しなやかな感覚がある。ウェインのヤング・マネーの子分であるニッキ・ミナージュとリル・ツイストが友情出演し、ビートもパワー・コードに包まれたタイトル曲のロック・ラップから、「ウィズ・ユー」の官能的なヒップ・ホップ~ドゥー・ワップまで振り幅を見せる。ウェインの特徴として、楽曲の印象は簡潔だ。彼には卓越したサウンドをカジュアルに聴かせる才能がある一方で、“ビル・ゲイツる”のように新しい動詞を作り出すこともできる。これ以上に笑えるレコードに、そうそう出会えるわけではない。囚人であれ一般人であれ、人間であれ月面人であれ、リル・ウェインはポップスにおいて最も信頼のおける純粋な娯楽の運び屋で、最も偉大な、生けるラッパーでもあるのだ。

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