“俺たちを止めるな/そこをどきな”と、ザ・ストロークスのニュー・アルバム『アングルズ』のラストに収められた「ライフ・イズ・シンプル・イン・ザ・ムーンライト」という曲で、ジュリアン・カサブランカスは罵り気味に歌う。それは時間の流れについての風変わりな感覚を持った5人の男たちにとって、意味深な放送終了の合図だ。このニューヨークのバンドの野心的で不安定な前作『ファースト・インプレッションズ・オブ・アース』は、5年前にリリースされた。『アングルズ』は曲作りとレコーディングにおよそ2年を費やし、なかにはほとんど破棄されたセッションも含まれていたが、ストロークスが10年で作り出した4枚のスタジオ・アルバムにおける成果は、ソロ・プロジェクトを除けば46曲。“俺はお前の我慢強さを試してるんだ”と、カサブランカスは1曲目の「マチュ・ピチュ」で歌う。冗談じゃない。
 しかしこれこそが待ちわびていものだ。ほとんどがロック・コンボの形式で成り立った、音楽的にも恋愛的にも入り乱れている細部に厳密な注意を払い、情熱的に取っ散らかった作品である。その突然にUターンするソングライティングと簡潔な出来栄えによって、『アングルズ』はモダン・ガレージ時代の幕開けを告げた2001年の剛速球『イズ・ディス・イット』以来、カサブランカスとギタリストのニック・ヴァレンシ、アルバート・ハモンド・ジュニア、ベーシストのニコライ・フレイチュア、そしてドラマーのファブリツィオ・モレッティが作り上げた、最高の作品となったのだ。
『アングルス』は同時に、ストロークスにとって、そのレコードからの真に大きな前進でもある。ストロークスはこの世紀の初めに、初期のヴェルヴェット・アンダーグラウンドのゼロ・ブルース推進運動のように純真で、完璧な形で現れた。けれどもカサブランカスはかつて、彼の好きなヴェルヴェッツのアルバムは、最も多様で、感情的に辛辣なソングライティングと、豊かなポップ・ヒットとバラードの力強さを備えた1970年の『ローデッド』だと語った。『アングルス』は、ストロークスによるその野望の解釈なのだ。彼らはエレクトロニクスを使いすぎた「ゲームズ」で枠を外し、それはまるでカサブランカスの2009年のソロ・アルバムに迷い込んだかのようである。続く「コール・ミー・バック」はもう少し無難で、どっちつかずのサイケデリックな緊張感の中でギターが簡潔に鳴らされ、ドラムは使われていない。ブリッジの部分では、眠りにつく誰かの耳元でメッセージを残すかのごとく、カサブランカスが囁くようなファルセットで歌っている。
 カサブランカスは最も内省的なロック・シンガーのひとりで、好戦的な台詞を書き、ギターの後ろから、薄絹のようなサウンド越しに歌う。“自分自身以上に嫌う人間もいなければ/応援する人間もいない”と、「ライフ・イズ・シンプル・イン・ザ・ムーンライト」で彼は宣言するが、疑念混じりのその虚勢は、彼のバンドの偉大さとジレンマを要約している。ザ・ストロークスは彼ら独自のロックを発明し、より良くなろうとしている。それには時間がかかるのだ。

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