“きみの中の潜在能力が見える/天国のすべての可能性が、きみに語りかける”と、マイ・モーニング・ジャケットのジム・ジェームスは、6枚目のアルバムのオープニングで歌う。まるでヒッピーの奇術師のようだが、楽曲はドアーズというよりはレディオヘッド風で、滑らかな低音ベースが唸り、張りつめながら打ち付けるシンバルの響きが、眠気を誘うアンビエントの波と、亡霊のようなバック・ヴォーカルに溶け合っていく。曲は不気味なほどに組み立てられ、混沌とディストーションでクライマックスを迎えるまで、闇雲に加速していく。それはイカれた天国の光景で、使い古された素晴らしさを流行りのパッケージで包み込むという、彼らの得意技の集大成だ。
 過去10年にわたり、ケンタッキー州の5人組は音楽の境界をなくすという、野心的な使命を担ってきた。ルイヴィルの体育館で録音された『サーキタル』もこれまでと同じくらい冒険的だが、もっとオーガニックで焦点が合っている。「ユー・ワナ・フリーク・アウト」で、ジェームスが愛らしく円を描くギターの揺らめきに向かって“若い魂よ、賢くやりな/君の反応は、君が受け取るものと同じなのだ”と歌う時、彼は『フライデー・ナイト・ライツ』のコーチ・テイラーの髭ロック版のように、少年たちにリラックスと内なるジャムへのチャネリング方法を示している。
 大きな恍惚感は酔っ払った目の信者を生み出すだろうが、『サーキタル』にはユーモアのセンスもあるのだ。「アウタ・マイ・システム」は、燃料切れの車泥棒が改心し、安定した結婚生活から、過去の日々を振り返るというもの。お次は彼らの中でも一番ひねくれた「ホールディン・オン・トゥ・ブラック・メタル」だ。ファズのかかったサイケデリックなファンク・グルーヴと悪魔のようなギター、ホーンの炎に乗せて、ジェームスは“ルシファーの浜辺で波に乗ろうぜ”と自慢げに歌い、飛び出しナイフを使いこなす女性シンガーたちが後を追う。「ブラック・メタル」はヘヴィ・メタルの駐車場での魂のピクニックで、悪魔の力を歌った楽曲の聖典に書き加えられるものだし、それはジミーが自分自身を確立した、古典的なスタイルでもあるのだ。

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