ネヴァーマインド 〈デラックス・エディション〉

1991年の秋に『ネヴァーマインド』が耳に飛び込んできた時は飛び上がりそうになった。それはまるでカー・ラジオで爆発する手榴弾で、何か(80年代? ヘア・メタル?)の終わりか、何か(オルタナティヴ・ロック? ジェネレーションX?)の始まりのように聴こえた。今や、このアルバムはあまりにもたくさんの神話に覆われていて、きちんと耳を傾けて聴くのは難しい。2005年には、アメリカの議会図書館が『ネヴァーマインド』を世界で最も重要なレコードのリストに加えた。それはスミソニアン博物館に展示する価値のある、美術品なのだ。そしてもちろん、20周年記念ボックス・セットがそれを不動のものにする。

この機会をどのように祝うかは、あなたの手持ちのストックと、オタク度による。デラックス・エディションには、リマスターされたアルバムと素晴らしいB面曲、あきれるほど素晴らしいライヴ・パフォーマンスに加え、未発表だったBBCセッションと、ラフだが真実味のある『ネヴァーマインド』収録曲の“ラジカセ・リハーサル”が収録されている。スーパー・デラックス・エディションに1万円近い大枚を叩けば、あなたはそのすべてに加え、アンディ・ウォレスが最終ミックスを手掛ける前の、ブッチ・ヴィグによる『ネヴァーマインド』のミックスと、91年のシアトル・パラマウント・シアターにおける圧倒的なコンサートのCDとDVD、そして90ページのブックレットが手に入るのだ。

これらの特典は歴史の勉強と、『ネヴァーマインド』を新鮮な耳で聴く機会を与えてくれる。「ブリード」や「ドレイン・ユー」を聴けば、なぜニルヴァーナが過去最強のパワー・トリオなのかがわかる。クリス・ノヴォセリックのベースのうねりと推進力、ジョン・ボーナムに匹敵するデイヴ・グロールのドラムの攻撃、喉が潰れるまで叫ぶことが、ほかのどんな歌い方よりも力強く、美しいと証明する、カート・コバーンの歌声の激情。

コバーンは『ネヴァーマインド』の艶やかなプロダクションに戸惑い、「パンク・ロックっていうよりモトリー・クルーのレコードみたいだ」とこぼしたそうだ。もちろん、彼が言いそうなことだし、彼のパンク原理主義はひとつの信仰で、彼にとってのショー・ビジネスなのだ。『ネヴァーマインド』を今聴き返して、バンドがなんと素晴らしいショーを展開していたのかと、あなたは驚くことだろう。苦悩に溢れたレコードにしては、それはまるでパーティのようで、押し寄せるアドレナリンがあなたを洗い流すはずだ。それはどんなジャンルや観念にも当てはめることのできない感情で、パンクでもグランジでも、ポップでもない。それはエンタテインメントだ。

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