ヒップホップにはドレイクのように、ジェイ・Zの自尊心と、チャーリー・ブラウンのソウルを持った男はいなかった。このカナダのシンガー兼ラッパーは、プラチナ・ヒットになった2010年の『サンク・ミー・レイター』で自分の憂鬱な役柄を紹介し、誰かが彼のシャンパンに風邪薬と自白剤を混ぜたんじゃないかと思うほどメロウな告白を、シンセ漬けのトラックに乗せて呟いていた。“俺が摂り過ぎたドラッグのように有名”と彼はラップし、“スターはつらいよ”という自分の妄想に、なんとかあなたを同調させるのだ。

それで、最近の彼はどんな気分? 『テイク・ケア』のカヴァーがすべてを物語っている。ドレイクは1970年代のジミー・ペイジから買い取ったようなマンションの奥に寂しげに腰掛け、一杯50ドルの鎮静剤が入った黄金のグラスに手を掛ける。彼はおそらく2分前にセックスをしたはずだが、まるで愛犬がたった今ゴミ収集車に轢き殺されてしまったかのように悲しげだ。

音楽は荘厳で、酔っぱらい電話の傑作「マーヴィンズ・ルーム」から、ニュー・オーリンズのヒップホップに宛てたトリビュートの「プラクティス」、アンドレ3000、ニッキー・ミナージュ、リル・ウェインにスティーヴィー・ワンダーのカメオ出演にいたるまで、ビッグ・ネームと引用が満載だ。『サンク・ミー・レイター』が軽やかで隙間があったのに対し、『テイク・ケア』はまさに贅沢で、広がりのあるプロダクションに向かっている。「カメラズ」では、ドレイクが他の女と一緒に雑誌に載っているのを見たガールフレンドを説得しようと必死になっている一方で、ビートメイクの神童レックス・ルガーが、ダイヤモンドのように輝くハイハットと重低音、ソウルフルなバック・ヴォーカルを提供する。「ロード・ノウズ」ではジャスト・ブレイズがゴスペル隊と透き通るようなR&Bのサンプル、踏み鳴らされるビートのミックスをちりばめ、リック・ロスが“水に浮かぶ邸宅の素晴らしい眺め/ユダヤ人とサウナに入るデブの黒人だけ”という、最高に愉快なフリー・スタイルで舞い降りる。そこにはドレイクが母親に宛てた、ファンキーな感謝の手紙まであるのだ。

「僕たちは愛なき時代に生きている」と、スティーヴィー・ワンダーのハーモニカに乗せて、「ドゥイング・イット・ロング」で彼は言う。『テイク・ケア』は我々の時代に向けたメッセージだと言ってもいい。深く進むにつれて、彼にほかの道はなかったのかと感じるかもしれないが、みんなが報われる世界なら、ドレイクなんて必要ないだろう?

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