20年近いキャリアの中で、シカゴのシンガー・ソングライターでヴァイオリニストのアンドリュー・バードは、 ジェフ・トゥイーディーが北欧デスメタル狂に見えてしまうほどの、 インディー・ロック界でもっとも魅力的な曲芸師としての名声を築き上げてきた。彼はジャズやケルティック・フォーク、チェンバー・ポップを融合させながら、「シシアン・エンパイアズ」といったタイトルの曲をやさしく語るように歌い、口笛を吹くのだ。もしも彼が控えめな好人物でなければ、勘にさわるほど自惚れてもおかしくなかったが、9枚目のアルバムで、バードは率直になり、好戦的ですらある。「デスペレーション・ブリーズ」が雰囲気を決め、暗い一陣のピアノとギターの不協和音で、アルバムの幕を開ける。わたしたちはすぐに、彼が何をたくらんでいるのかわかる。“先へ進んで、自分自身を祝福するんだ”と、控えめにニール・ヤング風な「アイオンアイ」で彼は歌う。アンディは怒っているのだ。ただし、「彼女は僕へのあてつけで、わざと『ダウンタウン・アビー』を録画するのを忘れたんだ」的なやり方で。

瞑想的で高尚(「ホール・イン・ジ・オーシャン・フロアー」)だろうと、物悲しく牧歌的(「フェイタル・ショア」)だろうと、彼の作品は狭量になることなく、心地良いマリンバとクリケットがアルバムを締めくくるインストの子守唄「ベルズ」を形作る時、それは浄化作用をもたらしてくれる。彼は心の安らぎを見つけたのだ。

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