女の子たちが世界を動かす。でも女の子たちを動かすのは? この10年間、その答えはビヨンセ・ノウルズだった。女性がポップ・ミュージックの表舞台に立つエストロゲンの時代に、ビヨンセはディーヴァの中のディーヴァであり、プリマ・ドンナであり続けた。ボブ・フォッシーとヒップ・ホップが出会ったようなド派手なダンスで、最高にファンキーな曲を歌う女の子で、カニエ・ウェストの印象的な発言を借りれば、過去最も素晴らしいビデオを作ったのだ。

ビヨンセはこれだけ当たり前の存在なので、彼女の奥の手は見落とされがちだ。最大の強敵であるレディー・ガガとは違うが(サーロイン・ステーキを着て授賞式に出るのは、Bの好みじゃない)、彼女もちょっとした変わり者なのである。しかしそれは音楽的なもので、独特なヴォーカルのシンコペートや、起伏の多いビートに浮かべる奇妙なメロディー、ラップの虚勢とゴスペルの信心深さ、昔ながらのショービズのきらびやかさを混ぜ合わせる、独特のやり方にあるのだ。それは彼女の4作目の幕を開けるバラード、「1+1」にも見受けられる。曲はローファイなインディー・ロックのように、少し不規則なギターのアルペジオと、慎重に奏でられるオルガンで始まり、ビヨンセは曲がりくねったメロディを歌いながら愛とセックスについて囁き、うめき、叫び声を上げるのだ。

ビヨンセはキャリアを通じて流行を生み出してきたが、『4』での彼女は、流行のプロダクションを置き去りにしている。そこにはユーロ・ディスコの大騒ぎはなく、ほとんどのトラックでは生楽器がデジタル・ビートに取って代わっているのだ。大半の曲はバラードだが、ヴィンテージ・ソウルやハード・ロック、レゲエ、アダルト・コンテンポラリーがミックスされたサウンドには、あらゆる種類のフィルターがかけられている。ビヨンセはナイジェリアのアフロ・ビートの伝説的存在であるフェラ・クティを影響に挙げているが、それはダンスホール風の決定打「カウントダウン」での逆立つようなブラス・アレンジや、好戦的なビートで“わたしを離さないって言いなさい!”と命令する、「エンド・オブ・タイム」が物語っている。

低調な瞬間は「マイ・ウェイ」風の自己賛美に陥ったダイアン・ウォーレンによるだらしないバラード、「アイ・ワズ・ヒア」で訪れる。“わたしはここにいた/生きて、愛した/わたしはここにいた/自分のやりたいことをした”。ビヨンセは自信たっぷりに歌うが、なんとも的外れだ。彼女はご存知のとおりのディーバだが、うぬぼれ屋だったり、ひとりよがりだったことはなかった。彼女は他のことをするのに忙しい……歌ったり、踊ったり、女神を追いかけたり、男を愛したり、世界を動かしたりすることに。

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