『踊る大捜査線』シリーズや『亜人』など、数々のヒット作を世に送り出してきた本広克行が、唐々煙の人気コミック『曇天に笑う』を実写化した。同作に主題歌を提供したサカナクションの山口一郎と本広監督による対談をお届け。
『曇天に笑う』は、明治維新後の滋賀県を舞台に、人々に災いをもたらすオロチ(大蛇)の力を阻止しようとする曇神社の三兄弟と、明治政府右大臣の直属部隊、そしてオロチの復活をもくろむ忍者集団の三つ巴の戦いを、斬新なカメラワークと派手なアクションで描いている。
曇家三兄弟の長男を福士蒼汰、次男を中山優馬、他にも古川雄輝や大東駿介、小関裕太ら、今をときめくイケメン俳優が勢揃いの本作、主題歌「陽炎」をサカナクションが手がけ、本編のオープニング・シーンとエンディング・シーンも彼らが太鼓チームGOCOOとコラボレートした曲を起用するなど、音楽ファンの間でも大きな話題となっている。
実は、サカナクションの山口一郎と本広監督は、プライベートでも非常に仲が良いという。今回の対談も話が弾み、映画のみならず様々なトピックについて、ざっくばらんに語り合う充実したものになった。
「映画でも音楽でも、大衆にきちんと届けるためにはものすごく工夫が必要だと思う」山口
─今回のタッグは、本広監督からの熱烈なオファーによって実現したそうですが、山口さんは本広作品をどう思っていましたか?
山口:僕も本広監督の大ファンだったんです。90年代の半ばくらいにフジテレビ系列で、『お金がない!』というドラマを放映していたんですけど、それがすっごい好きで。とりわけモッくん(本広監督)の演出した回(第7話「勇気もない!」、第10話「時間がない!」)が素晴らしかったんですよね。おそらく若い人は『お金がない!』って知らないかもしれないけど、映画『メジャーリーグ』(1989年公開)みたいなサクセスストーリーで。織田裕二扮する主人公が、死んだ両親に代わって年の離れた兄弟を育てながら、河川敷の掘っ立て小屋からサラリーマンとして出世していく。で、モッくんの演出した回は、織田裕二がどんどん登りつめていくんだけど、残された弟たちは昔のお兄ちゃんが恋しくて寂しい思いをしているという、非常に微妙な回だった(笑)。
本広:そうそう。一番下の弟が熱を出して寝込んでしまって、「それでも織田裕二は仕事を選ぶのか?」っていう葛藤を描く回だったんですよね。当時、僕はまだバラエティ班にいて、番組の前説とかやってたんですけど、「お前、ドラマも撮れるだろ?」って、ディレクターからいきなりお鉢が回ってきて(笑)。
山口:僕自身、そういう「葛藤」に対してのバランスの取り方みたいなことに、なんにせよ魅力を感じていて。本広監督ともよくそういう話をするのですが、映画でも音楽でも、大衆にきちんと届けるためにはものすごく工夫が必要だと思うんですよ。その工夫こそがセンスだしオリジナリティというか。自分がやりたいことを突き詰めるために、よりアンダーグラウンドへと潜っていく人もいれば、とにかく分かりやすいものを作るために、思いっきりメインストリームに振り切れる人もいる。モッくんが演出した『お金がない!』は、自分がやりたいことと、大衆に伝えるということのバランス感覚が、自分の感覚にすごく近い気がしたんですよね。