R&Bの今:本格ソウルへ回帰するシンガーたち

似たケースとして、10月12日にデビューアルバムを発表するエラ・マイの「ブード・アップ」が挙げられる。今や常套手段となったラップと歌の中間を行くスタイルを、同曲は意図的に排除している。「あなたが必要だってことを伝えるには、どれだけの方法があるのかしら」その疑問に対する答えを、彼女は圧倒的なヴォーカルで歌い上げてみせる。

発表から1年以上経ってからヒットした「ブード・アップ」の成功の陰には、ラジオDJビッグ・ヴォンによる継続的なサポートがあった。しかし時間差で同曲がヒットした最大の要因は、巷にあふれ返るものとは異なる本格的なR&Bを求めるリスナーたちの心を掴んだことだった。「ゼア・ユー・ゴー」(筋金入りの完璧主義者として知られたアーバン・アダルト・コンテンポラリー系シンガー、ジョニー・ジルが1992年に残したヒット曲)にインスパイアされた「ブード・アップ」は、2017年2月の時点では市場のニーズにフィットしなかったが、同曲はその15ヶ月後にシーンを席巻し、過去20年間で最もヒットしたR&B曲のひとつとなった。また彼女は新曲「トリップ」をラジオで12位にチャートインさせ、自身を一発屋とみなす人々を黙らせることにも成功した。

タイもまた、R&Bに起きつつある変化を象徴する存在だ。カニエ・ウエストとドレイクの作品、そしてリル・ウェインのサプライズ・アルバムにも参加した彼は、この夏最も注目を集めた人物のひとりであり、その本物志向の歌声はシーンにおける大物たちをも魅了する。

現在タイはR&Bシンガーのジェレマイとタッグを組み、今秋発売が予定されているジョイントアルバム『MihTy』の制作に取り組んでいる。圧倒的なカリスマ性を誇るシンガー同士のコラボレーションは、ダニー・ハサウェイとロバータ・フラックの1972年作、あるいはジョニー・ジルとゲラルド・レヴァート、そしてキース・スウェットの3人が作り上げた1997年作を思い起こさせる。官能的なソウルミュージックへの愛を包み隠さず表現してみせるタイは、『MihTy』で全編にわたってゴージャスなメロディを歌い上げている。

ポップ・ミュージックの歴史は、模倣を繰り返すことで形作られてきた。誰かがあるスタイルで成功を収めると、それを真似ることでおこぼれに預かろうとする人間が数多く現れる。ラッパーにはないハイトーンボイスを武器とする本格的R&Bシンガーの発掘に、今後レコード会社が躍起になることは間違いないだろう。「俺は長い間、このシンプルなスタイルを追求してきた」タイは去る8月にそう語っている。「でもようやく、俺たちの番が回ってきたみたいだ」

Translated by Masaaki Yoshida

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