映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』と1967年のヒット曲に隠された「悲しみ」の背景

マンソンは、ビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンらとの交流を通じて、音楽業界でポップスターになることを夢見るようになったが、それに挫折すると「ビートルズの“ヘルター・スケルター”から世界の終末が近いとのメッセージを受け取った」と妄言を唱えだし、ファミリーは女優のシャロン・テートらを惨殺する事件を1969年に引き起こしてしまう。

この忌まわしい事件を境に、ビーチ・ボーイズを筆頭とするロサンゼルス産のポップ・ミュージックは永遠にその意味合いを変えてしまった。それまでピュアで無垢な若さの喜びを歌う音楽として支持されていたのに、「やがてそれを失ってしまう悲しみを歌っている音楽だ」とリスナーに解釈されるようになってしまったのだ。

前述の冒頭シーンで流れるアソシエイションの1967年のヒット曲「ネヴァー・マイ・ラヴ」(最高位2位)も明らかにこうした文脈で選ばれている。“You ask me if there’ll come a time when I grow tired of you, Never my love(僕がいつか君に飽きてしまう日が来るんじゃないかって、そう聞きたいんだね、でも絶対そうはならないよ)”と歌われる詞は、恋人に永遠の愛を誓ったものであって、それ以上のものを当時の制作陣が考えていたとは到底思えない。にも関わらず、テン年代の耳で聴くと、やがて訪れる別れを予感していながら、わざとそれを否定して歌っているようにしか聴こえないのだ。

ちなみに当時この曲には「かなわぬ恋」という邦題がつけられていた。明らかに「Never」の使用法を間違った誤訳である。でも『アンダー・ザ・シルバーレイク』で描かれるサムからサラへの想いを表現した曲としてだったら、邦題のほうが遥かに相応しく感じられるのだから面白い。



「ネヴァー・マイ・ラヴ」
『Insight Out』収録
アソシエイションは美しいハーモニーを武器にしていた6人組グループ。本作は「ネヴァー・マイ・ラヴ」や全米1位を記録した「ウィンディ」が収録された1967年発表のサード・アルバムで、タートルズやフィフス・ディメンションを手掛けたボーンズ・ハウのプロデュースによるもの。

長谷川町蔵
文筆家。最新刊は『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)。その他の著書に『あたしたちの未来はきっと』(TABA BOOKS)、『21世紀アメリカの喜劇人」(スペースシャワーブックス)、「聴くシネマ×観るロック」(シンコーミュージック・エンタテイメント)など。

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