2011年7月、資産家のレオナルド・ブラヴァトニク氏は自ら経営する投資会社Access Industriesを通じて、33億ドルでワーナー・ミュージック・グループを買収した。ワーナーといえば、世界の音楽マーケット第3位のメジャー・レーベル。アトランティックやワーナー・ブラザース、アサイラム・レコードなど有名企業を子会社に持つ。
フォーブス誌によれば、ブラヴァトニク氏は全米の長者番付27位、総資産額179億ドルの資産家だ。
この賭けは見事に大当たりした。ワーナー・ミュージック・グループの決算書をじっくり見ればわかるように、Access Industriesは2018年に入ってから8カ月でワーナーから9億2500万ドルの現金配当を得ている。このうち5億ドルは、8月に一時金として支払われた。
これもひとえに、ワーナーの年間収入がストリーミングの後押しをうけ、2012年から29パーセント増加したおかげだ。加えて、同社が最近Spotifyの株式を2パーセント(5億400万ドル相当)売却したことにもよる(売却で得た額の25パーセントはそっくりアーティストへの報酬に充てられ、ワーナーの手元には3億7800万ドルが残った)。
景気のいい話ではあるが、音楽業界の起死回生は、Spotifyに負うところが大きい。スウェーデンに拠点を置く同社は2008年の創設以来、音楽著作権の所有者(レーベルやアーティスト、作曲家など)に100億ドル以上もの著作権料を支払っているのだ。現在その額は毎月2億8800万ドルにものぼる。
にもかかわらず、Spotifyのビジネスモデルは依然として不透明だ。同社は昨年12億4000万ユーロ(14億ドル)の純損失を出した。2018年は、上半期だけで5億6300万ユーロ(6億8100万ドル)の損失を出している。このままでいくと、今年も10億ユーロ規模の赤字になるだろう。
Spotifyが抱える一番の問題とは? 彼らには契約上レコード会社への支払い義務が発生するが、それで売上の大半を持っていかれてしまう。とある大手レーベルの重役から最近こんな話を耳にした。「これだけの損失を出したら、どんな会社でも生き残ることなどできない。Spotifyに残された選択肢は2つだけ。売却するか、Netflixのようなことを始めるかだ」
「Netflixのようなこと」とは、業界的にいうとSpotifyが――仲介役をすっとばして――アーティストと「直接契約する」ことを言う。こうした動きは既に始まっている。Spotifyが先月発表したサービスにより、インディのアーティストが直接ストリーミングに楽曲をアップロードし、レコード会社の中枢機能を避けることができるようになった。
ただしこの戦略には、リスクは避けられない。もし大手レコード会社の逆鱗に触れれば、大手レーベルは当然背を向け、Spotifyから自社アーティストの楽曲を全て引き下げるだろう。
あえてこうした手段に訴えたということは、Spotifyも切羽詰まっているのかもしれない。昨年、メジャー・レーベル(インディ・レーベルの最大手Marlineも含む)からリリースされた楽曲は、Spotifyのストリーミングの87パーセントにも及ぶ。
理想をいえば、Spotifyが大手レコード会社の聖域を侵すことなく、売上総利益率を十分に向上させる方法を見つければよいわけだ。
彼らがポッドキャストにラブコールを送ったのも、これで合点がいく。