1月の来日ショーケースも記憶に新しい88rising。アジアの音楽シーンの「今」を発信するレーベル/メディア・プラットフォームについて、マーケターとして活躍後、2019年よりCHOCLATE Inc.にジョインし海外事業プロデューサーを務める陳暁夏代氏に寄稿してもらった。
88risingが作る新しい世界
2019年1月10日、Zepp Tokyoで開催された88risingの来日公演。
初めて彼らのライブを観たのは、2018年8月STUDIO COASTでのハイヤー・ブラザーズの単独公演、そしてサマーソニックでのビルボード・ステージだった。彼らのことをまだよく知らないであろう観客の身体を揺らすそのライブのうまさに、感動したのをよく覚えている。だから、“彼ら”に日本で会うのはこれが3度目となる。
最寄駅に近づくと周りは既に服装でわかるそれっぽい客が多くいた。ライブ前によく目にする光景だ。ただ違うのは話す言語が日本語ではないこと。会場前に着くと平日にもかかわらずストリートファッションに身を包んだ若者で溢れていた。「チケットプリーズ……」。ぎこちない英語で懸命に対応するスタッフの姿が印象的だった。
客の過半数は中国人で、その他、インドネシア、韓国、日本人などあらゆるアジアが混じり合っていた。88risingのライブ会場ではいつも、彼らがステージに立つ時、その瞬間だけは観客も含め、88risingという一つの王国が生まれているように感じる。
AUGUST 08の序章で会場があったまり、緩やかに本開演を待つ会場の静けさを打ち消すようなKOHHのパフォーマンスで完全に支配され、その後のハイヤー・ブラザーズの「Made In China」で響き渡る中国語の合唱に戸惑いを隠しながらも胸が高鳴り、リッチ・ブライアンの聞き慣れた声が会場を癒す。最後は出演者全員の「Midsummer Madness」で幕を閉じる。その様子はネット上に様々な熱い感想があるので各々見て感じてもらいたい。
私は88risingの箱推しである。
ライブに参加して思うのは、来てる客層が完全にオリンピック状態になっているように感じることである。KOHHで日本人が沸き、ハイヤー・ブラザーズで中国人がハイになり、リッチ・ブライアンでインドネシアの男の子たちが歓喜している。まるでアーティストそれぞれが国を代表するようなヒーローとなり、その瞬間はその国のサポーターが大いに盛り上がる。そしてライブが終わるころには、まるで会場が一つになったような連帯感が生まれているのだ。
88risingは音楽に国を代弁させたアジアの集合体であり、それを世界最大の音楽市場であるUSから発信することでその地位を確立した。そして、88risingは長年アジア人の魂の奥底に眠る承認欲求や願望を満たす存在でもあり、彼らの敷地外でそれを表現しているからこそ価値がある存在になっている。まさに時代のカウンターカルチャーだ。