ジョン・スペンサーが爆走し続ける理由、『ベイビー・ドライバー』から振り返る過去と現在

―なるほど……。「ベルボトムズ」は25年前の曲ですが、当時のロックシーンはどういうものでしたか?

90年代の頭か……。JSBXは1991年に始めたけど、その前にプッシー・ガロアっていうバンドをやってたんだ。プッシー・ガロアはニューヨークのダウンタウンにあったヘヴィアートやノイズのシーンにいたすごく挑戦的なグループで、80年代半ばから後半にかけてアメリカのいろんな街でプレイしてた。そうやっていろんなバンドと会うなかで、俺はアンダーグラウンドのコミュニティに属しているという感覚があったんだ。そこではパンクロックやハードコアのシーンから来た人たちが新しいスタイルを構築していて、俺はそことつながっている感覚があった。

だけど、JSBXでは同じような近さをシーンに感じなくて。もちろん、一緒にプレイして楽しいバンドはいたけど、俺たちの音楽は他の人たちとはちょっと違っていて、ブルースやリズム・アンド・ブルース、ソウルみたいなアメリカのルーツ・ミュージックからの影響が大きくて、そこからまた新しいものを生み出していたんだ。しかも、そのときにはもう俺はそんなに若くなかったから(笑)、JSBXはシーンのちょっと外にいる感覚だった。


今回の来日公演でも披露された、プッシー・ガロアの1986年作『Groovy Hate Fuck』収録曲「Just Wanna Die」

―そうだったんですね。

1994年に「ベルボトムズ」が収められている『オレンジ』という3枚目のアルバムを出したとき、俺たちはアメリカ、カナダ、ヨーロッパで本当にたくさんのコンサートをやって、メンバー3人はバンドにおけるそれぞれの役割をしっかり理解していたんだ。つまり、どうやってコンサートをするか、曲を作るかっていうことを口に出して話し合うことなく実行に移すことができていて、それぐらいバンドとして成熟していた。

―とてもいい状態だったんですね。

俺たちはジェームス・ブラウンやスタックス(・レコード)の音楽に常に興味があったから、『オレンジ』はジェームス・ブラウンやオーティス・レディングのような人たちに対する心のこもったラブレターみたいなものにしたんだ。でも、そういう作品にしようってバンドで話し合ったわけではなくて、俺たちが普段聴いている音楽や読んでいる本、3人の間で交わされていた会話から生まれたんだよ。

―なるほど。

しかも、そういった音楽と並行して、俺たちはパブリック・エネミーとかアイス・キューブみたいなヒップホップも聴いていてね。彼らの音楽は60’sや70’sのソウル・ミュージックからサンプリングしていて、例えば、ブッカー・T&ザ・MG’sを聴くと、アイス・キューブがサンプリングしたフレーズが入っていたりする。だから、俺たちにはそういったソウル・ミュージックとヒップホップをつなげる線が見えていて、他にはない独自の世界が生まれた。だから、当時のシーン全体がどうだったかっていうのは俺には説明しづらいね。俺たちは自分たちだけの“泡(空間)”のなかにいたからさ。だから、『オレンジ』みたいなアルバムや「ベルボトムズ」みたいな曲はシーンから生まれたんじゃなくて、もっと個人的なところから生まれたものなんだよね。

―日本の音楽リスナーのJSBXに対するイメージはロックンロールですけど、JSBXは95年の時点で既にウータン・クランのメンバーGZAやイギリスのアンクルにリミックスを依頼していますよね。

それはどれも当時聴いていた音楽だね。俺たちはウータンやオーティス・レディングやジーザス・リザードなんかのレコードに興奮していて、「俺たちもこういうことをやってみたい!」って思ってたんだ。しかも、さっきも話したように、俺たちはたくさんのヒップホップを聴いてたし、ルーツ・ミュージックの要素を独自の方法で抽出して、それを新たに組み替えた音楽を作っていたから、リミックスという概念は自分たちにとってとても筋が通った方法だったんだよ。


アンクルによる「ベルボトムズ」のリミックス

―2019年の今、ジョンが面白いと思うヒップホップアーティストは誰ですか?

新しいアーティストではないけどキッド・コアラはずっと好きで、彼が2009年にThe Slewというユニットで出した『100%』という作品は、ロックアルバムなんだけどサンプリングでできていてすごく好きだね。The Slewにはウルフマザーの元メンバーも参加してるんだ。……でも、2019年のヒップホップってなるとな……。80年代はいつもニューヨークの素晴らしいローカルラジオ番組を聴いてたし、いろんなショウを録音してたけど、俺はオールドスクールだから今のヒップホップはそんなに聴いてない。

―最近はどんなアーティストが気になっていますか?

正直に言うと、俺は以前のような熱心なリスナーじゃないんだ。今はすべての音楽をYouTubeやSpotifyで見つけられるけど、俺は古い人間だからレコードを買ってそれをターンテーブルに乗せるのが好きなんだよ(笑)。でも、インターネットにすべての音楽があるっていうのは便利だし、驚くべきことだし、俺も理解しようとしているけどね。まあ、以前ほどレコードを買ってないのは確かだよ。それでも新しいバンドは見つけていて、イタリアのパンクグループThe Devilsはいいよ。男女2人組で、女性がドラム、男性がギターを演奏しているんだ。VOODOO RHYTHM RECORDSからリリースされてる。本当にすごいバンドだよ。新しいことをやってるわけではないけど、素晴らしいスタイルだし、よくやってると思う。あとは新しいバンドじゃなくても、いつでも新しい発見があるね。




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