リオン・ブリッジズ、3年ぶりの来日公演で見せたエンターティナー精神

恵比寿LIQUIDROOMにて3年ぶりの来日公演を開催したリオン・ブリッジズ(Photo by Masanori Naruse)

第61回グラミー賞で「最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス賞」に輝いたリオン・ブリッジズが、5月24日に恵比寿LIQUIDROOMにて初の単独来日公演を行った。その翌日には横浜で開催された「GREEN ROOM FESTIVAL ‘19」のヘッドライナーとしても出演を果たした彼だが、3年ぶりとなった来日公演ではどんなパフォーマンスが繰り広げられたのか。その全貌を公式レポートにてお届けする。

米テキサス州フォートワース生まれのソウルマン、リオン・ブリッジズ(29歳)が、2016年のフジロック以来約3年ぶりに日本公演を行なった。まず5月24日(金)の会場は恵比寿・LIQUIDROOMで、単独来日公演としてはこれが初。そして翌25日(土)は横浜赤レンガ倉庫特設会場にて行われたに堂々ヘッドライナーとして出演した。ここではLIQUIDROOMの単独公演の模様を中心にお伝えしよう。

リオン・ブリッジズがライブ映えするアーティストであることは、2016年のフジロック(フィールド・オブ・ヘブン)で見せた開放的なパフォーマンスで既に証明されていた。デビュー・アルバム『カミング・ホーム』を聴いて純朴な歌手という印象をもった人は少なくなかったと思うが、あのときもリオンは軽やかにステップを踏み、ダンスしながら歌っていたものだ(因みにその日のフィールド・オブ・ヘブン、リオンの次の出演者はコートニー・パインも参加してのアーネスト・ラングリンで、その次はカマシ・ワシントン。いま思い返してもフジだからこその美しい流れだった)。その翌年10月にはローリング・ストーンズのオランダ公演でオープニングアクトを務め、恐らくそのあたりで彼はライブパフォーマンスに対しての意識をより強めたのだろう。そして複数の外部参加作なども経て、昨年5月に2ndアルバム『グッド・シング』を発表。今年の第61回グラミー賞では「最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス」で初受賞も果たした。
 
今回の日本公演で初めて観た多くの人は、まずこう思ったに違いない。「こんなに踊って歌う男だったのか?!」と。オープナーの「イフ・イット・フィールズ・グッド(ゼン・イット・マスト・ビー)」から彼は終始ステージを動いて、よく踊る。スローな曲であってもじっとしておらず、カラダをしなやかに動かして歌う(スロージャム系であんなに動いて歌う人は珍しい)。自分はフジでも観ているし、リオンがフィーチャーされたODESZAの「Across The Room」や、『グッド・シング』のリード曲「バッド・バッド・ニュース」のMVでも彼のダンスがフィーチャーされていたので驚きこそしなかったが、今回の公演で改めてリオンのソウル表現にダンスは切り離せないものだということがよくわかった。そして、その様はセクシーでもあった。

リオン・ブリッジズ_ライヴ写真③Photo by Masanori Naruse.jpg

ダンスの種類に詳しくないので的確かどうかわからないが、どういうダンスかと言えばヴォーギングとブレイクダンス(そこからヘッドスピンなどアクロバティックな動きを除いたもの)を混ぜたような感じと書けばいいだろうか。実はリオン、かつてはアッシャーに憧れて11歳からヒップホップ・ダンスを始め、学校でもダンスを専攻。振り付けも勉強して、将来はそっちの道に進むことを考えていた。ギターに興味を持って音楽を始めたのはそれよりあとのことだったのだ。
 
ではヴォーカルはどうか。1曲目「イフ・イット・フィールズ・グッド(ゼン・イット・マスト・ビー)」で発せられた歌声を聴いた瞬間、それほどパワフルというわけではないのだなと感じた人もいたのではないだろうか。そう、リオンの歌声は押しが強くない。ソウルフルと言えども声を張ったり伸ばしの長さで圧倒するようなタイプではないし、極端に個性が強い声質というわけでもない。これ見よがしなところがないのだ。デビュー盤『カミング・ホーム』のライナーに自分はこう書いた。「明るすぎず暗すぎず、軽すぎず重すぎず。そういう歌声の歌手は意外と少ないものだが、彼の声はそんなふうだから、落ち着いた気持ちで聴けるのもいい」。また、その当時のインタビューでリオン自身がこう話してもいた。「僕はパワフルな声の持ち主じゃないし、シャウトするタイプでもない。僕は自分の感情を伝えるのに、フレージングに頼っているんだ」。それを自覚しての歌唱表現である故、パンチはないが、しかし聴き進むうちに味わいの深さが増してくる。どんどんどんどん増してくる。そこがいいし、彼もそれが自分の歌の個性であり強みでもあるとわかった上で自信を持ってパフォーマンスしていることがハッキリと伝わっても来たのだった。
 
バンドはギター×2、ベース、ドラム、キーボード、そしてコーラスとパーカッションを兼ねる男女ふたり。鍵盤奏者は曲によってサックスも吹く。この7人のうちギタリストのうちのひとりのみ白人だ。それぞれの技量は非常に高く、バンドとしての音に厚みがある。ギタリストはブルーズのソロも泣き要素ありで色っぽく聴かせたりしていた。
 
全曲に触れる紙幅はないが、ざっと印象に残った場面のみ書き留めておこう。弾んだテンポ感の「イフ・イット・フィールズ・グッド(ゼン・イット・マスト・ビー)」はオープナーに相応しく、観る側の気持ちも弾ませたはず。ジャジーな「バッド・バッド・ニュース」はフロウの操りとコーラスの入りが印象的。軽快な「ミシシッピ・キッシズ」は間奏の鍵盤とブルーズ・ギターがレイドバックしたいい感じに。驚いたのは4曲目の「ベター・マン」で、1stアルバムではいかにも50~60年代あたりのビンテージ感に満ちたソウルナンバーとして収録されていたわけだが、それとは大きく異なるモダンなアレンジが施され、ダンサブルな曲として生まれ変わっていた。5曲目「シャイ」はリオンのファルセットが美しく、続いての「カミング・ホーム」は両手でマイクを握って歌うあたりにも情感がこもっていてグッときた。こういうテンポの曲になると、デビュー当時に「サム・クックの再来」とよく言われていたことを思い出さずにいられない。続いての「ビヨンド」は個人的に2018年に聴いたあらゆる曲のなかで一番好きだったりするのだが、やはりこういう素朴なスロー曲でリオンのヴォーカルの味わい深さがもっともよく出るように思った。
 
現代ジャズ的なドラムとコントラバスの奥行きある音にのせた「ジョージア・トゥ・テキサス」でのリオンの歌唱はこの夜もっともディープなもので、鍵盤奏者が間奏で吹いたサックスもそれに相応しかった。一方、「フォーギヴ・ユー」や、パーティー感満載のカリビアン・タッチなダンス曲「ユー・ドント・ノー」にはリオンのポッパー的な一面が表われたりも。「ユー・ドント・ノー」ではそれまで後ろでコーラスとちょっとしたパーカッションを担当していた女性ブリットニ・ジェシーと、同じく男性のブランドン・ミルズが前に出てきてヴォーカルをとり、非常に華やいだ雰囲気になった。因みにブリットニ・ジェシーは1stアルバム『カミング・ホーム』からリオンの曲に華やぎを加味している女性で、その佇まいと美しさでフジロックでも強い印象を残したものだった。そして本編は「スムース・セイリン」と「フラワーズ」というリズム&ブルース~ロックンロール的なノリも持った軽快な曲で観客たちを巻き込むようにして終了。
 
だが、最大の感動はアンコールで訪れた。1stアルバムの最後に収められていたリオンにとっての最重要曲「リヴァー」。フジでも最後に弾き語りで表現されたこの曲を、今回はリオンがエレキギターを弾いて歌い、その横にブリットニが並び、そしてほかのメンバーたちはステージ向かって左側に集まる形をとりながらコーラスを担当。楽器はリオンのギターと、あとは鍵盤だけで、まさしくリオンの祈りのような歌が心に深く沁み入ってきたのだった。
 
2ndアルバム『グッド・シング』を携えてのライブとあって、そこからの曲は全て歌われたが、デビュー・アルバムからも「シャイン」「プル・アウェイ」「ツイスティン&グルーヴィン」を除いて7曲も歌われた。さらに1stのデラックスエディションに収録されていた「ミシシッピ・キッシズ」や、以前からライブで歌われている「ホールド・オン」を加えて、約1時間半で全19曲。50~60年代の古き良きソウルの色合いが濃かった1stアルバムのナンバーと、ジャジーソウル曲やポップロック曲にまで範囲を拡張してモダンな展開も見せた2ndアルバムのナンバーが果たしてどのように合わさったライブを見せるのか、それを違和感なく見せられるのかというところが観る前までの最大の関心ポイントであったわけだが、違和感など1ミリもなく、それらは実に有機的な混ざり具合を見せた。また、1stの曲がリオンにとって過去のものなどでは決してなく、それがあっての現在なのだということもよくわかった、そういうライブだった。

リオン・ブリッジズ_ライヴ写真②Photo by Masanori Naruse.jpg

因みに終演後、少しだけ彼と話をすることができたのだが、「次のアルバムでは1stと2nd、どっちの要素が濃くなりそうか」という自分の質問に対し、リオンは「どっちかというわけではなく、ソウルの部分もジャジーな部分もそのほかの部分もきっと入るだろうけど、それぞれをもっと深いものにしていきたいんだ」と答えた。まだだいぶ先になるだろけど、今からそれを聴くのが楽しみだ。
 
さて、翌日の。ここでは前日の単独公演より30分ほど短い構成だったが、その分、名場面的なところがギュッと凝縮されたライブとなった。広々としたステージを彼は終始、生き生きと動き回っていたし、おまけに途中で海上に花火があがったりもして(それは彼側の演出だったわけじゃないが)、よりエンターテイメント性といったものが強く感じられもした。デビュー当時とは違い、現在の彼のライブにはソウルだけでなくブルーズやロックやポップの要素もあって、だから例えば彼がオープニングアクトを務めたローリング・ストーンズや、またはヴィンテージ・トラブルなんかを好きな人もグッとくるであろう開かれた感覚がある。でありながら、やはりそこにいるひとりだけに歌いかけているような感覚を今も大事にしているところもある。まだ20代。3年先、あるいは5年先、10年先に、リオンはどんな歌をどんなふうにうたっているだろうか……。とにかく長く追いかけたいシンガーだ。

(文:内本順一)



Leon Bridges LIVE IN TOKYO

日程:2019年5月24日(金)
会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM

=SET LIST=
イントロ/イフ・イット・フィールス・グッド(ゼン・イット・マスト・ビー)| Intro/If It Feels Good (Then It Must Be)
バッド・バッド・ニュース | Bad Bad News
ミシシッピ・キセズ | Mississippi Kisses
ベター・マン | Better Man
シャイ | Shy
カミング・ホーム | Coming Home
ビヨンド | Beyond
ブラウン・スキン・ガール | Brown Skin Girl
ベット・エイント・ワース・ザ・ハンド | Bet Ain’t Worth The Hand
ジョージア・トゥ・テキサス | Georgia To Texas
フォーギヴ・ユー | Forgive You
ライオンズ | Lions
ユー・ドント・ノウ | You Don’t Know
リサ・ソーヤー | Lisa Sawyer
ホールド・オン | Hold On
ミセス | Mrs.
スムース・セイリン | Smooth Sailin’
フラワーズ | Flowers
<アンコール>
リヴァー | River

Rolling Stone Japan 編集部

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