『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』映画評:エンドゲームの後に救いをもたらす明るい作品

高校の行事としてヨーロッパで休暇を過ごすことで、このシリーズがNYのクイーンズから飛び出せたのは実に喜ばしいことだが、スパイダーマンは土、水、火、風の形態をとるモンスターの冷酷なエレメンタルズと戦わなくてはならない。ヴェネチアの運河が水位を増して猛威を振るう時には、ピーターはクラスメイトから今回も不審がられないように変装をして戦う。親友のネッド(かつてないほど素晴らしい演技を見せるジェイコブ・バタロン)はすでにピーターの秘密を知っている。ありがたいことに、いじめっ子のフラッシュ(トニー・レヴォロリ)はスパイディの大ファンだが、ピーターのことを情けない奴だと思っている。そして、学校で口達者なブラッド(レミー・ヒル)はほらを吹いてピーターを押しのけて、MJを口説きにかかる。まさかと思うだろう。見ていて楽しいのは、フューリーのチームが全身黒づくめのステルス・スーツをピーターのために用意したことだ。ピーターが新しいスパイディの姿を見せると、ネッド(そして、メディア)はその姿を「ナイト・モンキー」と冗談めかして呼ぶ。

ピーターは、師匠のトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)を亡くした今、目標を失ってしまう。スタークは愛弟子のピーターにとてつもなく高額なハイテクのサングラスを残していった。それは、思いのままに力を利用できるヴァーチャルな音声アシスト機能だ。だが、ピーターはそのサングラスをうまく使えずに、危うく人を殺しそうになってしまう。ピーターが自分を導いてくれる年上の賢明なリーダーを求めていると、クエンティン・ベック(ジェイク・ギレンホール)が現れる。その男は異世界からの訪問者と自ら名乗り、金魚鉢のようなものを頭に被りスーパーヒーローに変装した魔法使いのミステリオに変身する。この新入りキャラはヴェネチアを始めプラハ、ベルリン、ロンドンでエレメンタルを叩きのめす。彼はまさにピーターが求めていた“代理父”的な存在だ。だが、果たしてそうなのか? ギレンホールはこの役に皮肉に満ちたウィットをもたらし、スターの存在感を示してはいるが、アイアンマンではない。それならば誰なのか?

そして、ピーターのクラスメイトたちを追いかけることが最後の切り札となると、特殊効果に重点が置かれる。一体どうしてしまったのか。監督のジョン・ワッツと脚本家のクリス・マッケナとエリック・ソマーズが前作から引き続き仕事をこなし、物語を進めていく。だが、登場人物を特徴づけるためにアクションを使うことはなく、人としての成長を見せるべきことを、コンピューターで作られた大掛かりなトリックを見せることに差し替えている。それによって、映画は瞬く間に愛想を尽かされてしまう。これは、マーベルのフェーズ4へとなだらかに移行することを目的とする映画としては、おかしな選択だ。そのフェーズでは、多くのお気に入りであるアベンジャーズはもはや存在していない。我々がこの作品で将来を期待できるのはホランドだ。23歳の彼は5年間の成長期を失った10代の若者を演じるのに理想的な選択だ。彼の大きな瞳の無邪気さは本物であり、観客の心に入り込んでくる。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』には、不自然なデジタルのまやかしはない。ホランドの演技に見合うものとなっている。彼は、MCUにもう一度フレッシュさをもたらしている。


★★★★☆
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』

2019年6月28日(金)より全国ロードショー中
監督:ジョン・ワッツ
脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
マーベル・コミック・ブック原作:スタン・リー、スティーヴ・ディッコ
製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
出演:トム・ホランド、サミュエル・L・ジャクソン、ゼンデイヤ、コビー・スマルダーズ、ジョン・ファヴロー、J・B・スムーヴ、ジェイコブ・バタロン、マーティン・スター、マリサ・トメイ、ジェイク・ギレンホール
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.spiderman-movie.jp/

Translated by Koh Riverfield

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