医療体制の崩壊を招くような非常時、薬物療法の現場はどうするべきか

新型コロナウイルスの脅威にどう立ち向かっていくか

治療を受けることもこれからさらに難しくなるだろう。自身も薬物依存の治療を受けている登録看護士のビル・キンクルさんは、フィラデルフィアの外来専用薬物依存治療クリニックCleanSlateでケアコーディネーターとして勤務している。パンデミックが原因で、利用者が入院施設での治療を受けられずにいる場面を目にしている。

「僕が電話したいくつかの治療センターでは、患者を受け入れる前にコロナウイルスの検査を義務付けていました」とキンクルさん。「ERでは問診と検診を行いますが、症状がないと検査はしてくれません」 彼曰く、電話をかけた治療施設のうち少なくとも1カ所は事実上施設を閉鎖し、コロナウイルスが持ち込まれないよう新規患者は受け入れていない、と言われたそうだ。住む場所のない人にとって状況はさらに悲惨だ。「路上で生活している人々は、『こんな思いはもういやだ』と言っていますが、治療を拒否されているんです」


左:フィラデルフィアのビル・キンクルさん。右:キンクルさんの治療キットの中身。点鼻スプレー、パルスオキシメーター、防護具が入っている。

ひとつ、キンクルさんの目に留まった明るい材料がある。遠隔医療の規制緩和だ。これはオピオイド治療に有効な手段となるだろう。「診療所まで連れて来られなくても、Zoomや遠隔医療アプリを使えば街角で診療することができます」 それでも、彼は度々ポケットいっぱいに点鼻スプレーを詰め込んで、道行く麻薬中毒者に配っては話を聞いて回っている。

「アウトリーチ・ワーカーは、ソーシャル・ディスタンシングや自主隔離というものに苦労しています」とロドリゲス氏は言う。「援助も、情報も、物資もない人をそのままにしておきたくない。彼らこそ、最も脆弱で疎外されている人々、薬物依存に苦しんでいる人々と一番繋がっている人たちなんです」 HRCのガイドラインは医療従事者に対し、配布場所は消毒すること、病気による人員不足に備えておくこと、といった対策を推奨している。

それでも医療従事者は、コミュニティに歩み寄り、できる限り手を差し伸べ続けると言っている。「今はニーズを探すことが一番ですね」とギルバート氏。翌日はポートランドのホームレス施設にいる利用者に物資を届ける予定だ。「それが僕の明日の目標です。人々が何を必要としているのかを聞かなくては。その後、それを提供するのが僕の仕事です」

コロナ危機、最悪の事態を免れたシアトルの街角と医療の現場から(写真ギャラリー)

Translated by Akiko Kato

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