日本ポップロックの革命の時期 1980年代後半の佐野元春作品を振り返る



田家:このアルバムのタイトルは日本語でした。それまではずっと英語でしたよね。

佐野:特に意識はしていなかった。

田家:日本語にするっていうのは、何かきっかけがあったんでしょうか?

佐野:海外で仕事すると自国の文化が大事だって気づく。それが理由だと思う。

田家:この曲の歌詞で「聖者が来ないと不満を告げているエレクトリックギター」というところで、ギターが流れたりするんですよね。そのギターアンプはピート・タウンゼントのアンプだったとか。

佐野:スタジオのアシスタントがアンプを調達してくれた。よく見るとアンプの横に大きくピート・タウンゼント書いてあった。話を聞いたらピート・タウンゼントから借りてきたっていう(笑)。アンプのところどころがボロボロになっていたよ(笑)。



田家:1989年6月発売6枚目のアルバム『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』から「新しい航海」でした。先程の「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」の中の歌詞"世界は形を変えていく"という歌詞と対になったような曲だなと思います。

佐野:『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』をリリースした1989年は、世界が大きく形を変えていく瞬間だった。例えば天安門事件、ベルリンの壁崩壊、日本でも天皇崩御。僕はそんな時代の変化を予感しながら曲を作った。「新しい航海」という曲にしてもそう。時代と呼吸を共にしたアルバム。それが『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』じゃないかな。

田家:でもそれはヨーロッパにいたからよく見える世界、浮かんでくる日本の姿っていうのもあるわけですもんね。だから違って見えるものがいっぱいあったんでしょうし。このアルバムが出る前の1988年8月にシングル『警告どおり 計画どおり』というのが出ているわけで、この曲は今回のベストアルバムに収録されていませんが、その中にスリーマイルとかチェルノブイリなどの固有名詞もたくさん出てきていました。ジャーナリズムに対しての懐疑的な姿勢も歌われていて。

佐野:『警告どおり 計画どおり』はトピックソングだ。トピックソングって時代が変わるとちょっと陳腐化したりする。この曲が陳腐化しているとは思わないけど、でもベストアルバム向きじゃないなと思った。

田家:今回、改めてこの頃のインタビューを拝見していたら、1989年の「宝島」のインタビューで「僕は全共闘世代には遅すぎ、コンピューター世代には馴染めない。いつも自分について君はどうなんだ? と、上からも下からも突きつけられている世代だ。ウッドストックのロックジェネレーションがイデオロギーや政治に関わることで、音楽性や芸術性といった本来自発的で自由であるべきものが無残に破壊されてきているのを見ているから、自分の音楽に政治やイデオロギーを忍び込ませるのに非常に注意深くしている」と、語っておられました。この発言について今どう思われます?

佐野:正直でいいと思うよ。

田家:なるほど(笑)。では『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』から、もう一曲シングルになった曲です。「雪―あぁ世界は美しい」。

Rolling Stone Japan 編集部

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