西海岸ヒップホップの名曲
―ああ、ラップのレコードが出てきたのは70年代後半なので、ロックの歴史のほうが全然長いです。あと、ヒップホップには、サンプリングすることで曲を作れてしまうという特徴があるので、楽器が弾けなくてもできる音楽ということで若者を中心に広がっていくんです。簡単に説明すると、サンプラーという機材を使って人のレコードから特定のフレーズを取り込んで、そのフレーズを繰り返すことでビートを作るんです。
なるほど。
―今聴いてもらった「Walk This Way」はロック寄りでしたが、こんな曲もあります。
BIG POPPA / Notorious B.I.G
―これは90年代の大ヒット曲です。
ヒップホップってこういうイメージがある。
―この曲も同じフレーズの繰り返しですよね。
うん、ずっと同じ音が流れてる。
―このラッパーは人気絶頂の頃、何者かによって銃で殺されてしまいました。
え、なんで……?
―90年代のアメリカには、東海岸と西海岸というタイプの違うシーンの争いがあって。ざっくり言うと、西の音はゆるくて、東の音はビートが硬いっていう特徴があるんです。で、例えば、東のラッパーが曲の中で西のラッパーの悪口を言うと、それに対して西のアーティストが自分の曲で言い返す。そういう文化がヒップホップにはもともとあって、それが過熱した結果、こういう悲しい事件が起こってしまったという。話はズレましたが、こういうノリってどうですか。
私、今まで曲の展開に期待してしまうクセがあったんですよ、転調とか。でも、ヒップホップはそういう展開を期待しないで聴くと心地いいんです。曲と向き合って聴くというよりも、日常のBGMとして聴くのにちょうどいい音楽だと思う。ながら聴きというか。最近、そういう聴き方ができるようになって、今までは音楽を聴くだけの時間をつくっていたんですけど、ヒップホップは気を張らずに聴ける音楽だから、朝、身支度してるときなんかにこういう同じテンポの曲が流れてくるといいんですよね。だから、嫌じゃないです。
―さっきも言ったように、ヒップホップって基本的に同じフレーズの繰り返しで進む曲が多いんですけど、既存の曲の一番気持ちいいフレーズをサンプリングしてループさせてるので、名曲と言われる曲はそのループがめっちゃグルーヴィーでカッコいい。だから、みんながノルんですよ。ということで、今の曲のサンプリング元になっている曲を聴いてみましょう。
BETWEEN THE SHEETS / アイズレー・ブラザーズ
(曲が流れ出した瞬間に)同じやん!(笑)。でも、この曲とさっきの曲だったらさっきの曲のほうが好きです。
―こっちの曲はサビになると別の展開をしていくんですけど、さっきの曲は冒頭のフレーズだけをサンプリングして繰り返しています。ちなみに、これは80年代のR&Bのヒット曲です。
ソウル、R&B、ヒップホップは違いが全然わからないんですよ。フェイクがあったらR&B、みたいな。そこがもっとわかるようになったらいいな。
―僕も「このジャンルはこういう音」っていうのは特別学んでないですよ。いろいろと聴いていくうちに、感覚で自然とわかるようになると思います。で、ここで何を伝えたいかと言うと、ヒップホップというのは、どの曲からサンプリングしたかという部分で楽しむこともできる音楽なんですよ。「この曲のこんなところをサンプリングしたのか! センスあるな~!」とか。
言い方は良くないけど、手軽な音楽なんですね。
―でも、カッコ悪いフレーズを持ってきても、カッコいい曲にはならないという。
ああ、センスが必要なのか。