第93回アカデミー賞授賞式総括:『ノマドランド』主要3部門を受賞、監督はアジア人女性初受賞

今年の授賞式の最大の変化は、主題歌賞のパフォーマンスが授賞式から授賞式前のイベントに移行した点だ。イベントではドラマーのクエストラブがDJを務め、続いて俳優でコメディアンのリル・レル・ハウリーがアカデミー賞に関するクイズゲームの司会進行役をこなした。その後、女優グレン・クローズが「Da Butt」に合わせて披露したダンスでイベントは幕を閉じた。「Da Butt」は、スパイク・リー監督の1988の映画『スクール・デイズ』のサントラ収録曲で、作曲者はワシントンDCを拠点に活動するゴーゴーバンドE.U.(この直後に毎年恒例の「追悼コーナー(In Memoriam)」が続き、3時間半におよぶ怒涛の授賞式が行われた)。

今年のアカデミー賞は、従来の授賞式よりも時間の使い方に対してずっと寛大だった。忌々しいBMGによって強引にスピーチを中断される心配もなく、受賞者は時間をかけてスピーチを行うことができた。このおかげで感動的なシーンの自然さが際立つ結果となった。『アナザーラウンド』で国際長編映画賞を受賞したデンマークのトマス・ヴィンターベア監督が一人ひとりに感謝の気持ちを伝え終わったあとに同作の撮影開始直後に他界した娘について語った感動的なスピーチは、その代表例と言える。さらには、興奮気味のカルーヤがフレッド・ハンプトンのこれまでの功績と今後の課題について語った一方、「今夜は最高の気分だ。ほんとうに、人生を楽しまないと——僕らは息をしていて、歩いていて、ほんとうに信じられないよ……すごいよな、ママとパパがセックスしたおかげで僕がいるんだ!」と言って母親に気まずい思いをさせることも忘れなかった。

このほかの今年の受賞作には、ディズニー&ピクサーにとってまたとなる長編アニメ映画賞を受賞した『ソウルフル・ワールド』が含まれる。長編ドキュメンタリー映画賞には『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』が輝いた。技術系部門では、『マ・レイニーのブラックボトム』のミア・ニールとジャミカ・ウィルソンがメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。初の黒人女性としてアカデミー史に名を刻んだ。さらには、同作で衣装デザインを受賞した89歳のアン・ロスがアカデミー賞受賞最高齢記録を打ち立てた。

さらに賞授賞式では、「音響編集賞」と「録音賞」をひとつにした「音響賞(Best Sound)」という部門が新たに導入され、『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』が同賞を受賞した(ジェイミー・バクシュト、ニコラス・ベッカー、フィリップ・ブラッド、カルロス・コルテス、ミッチェル・コートレンツ)。同作は編集賞にも輝いた(ミッケル・E・G・ニールセン)。『TENET テネット』が視覚効果賞を(スコット・R・フィッシャー、アンドリュー・ジャクソン、デヴィッド・リー、アンドリュー・ロックリー)、『Mank/マンク』が美術賞を(ドナルド・グラハム・バートとジャン・パスカル)と撮影賞(エリック・メッサーシュミット)を受賞した。

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短編実写映画賞に輝いたのは『隔たる世界の2人』だ。同作に出演したラッパーのJoey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)は、黒人と警官の交流を描くのにSFタイムループを利用した。短編アニメ映画賞を受賞したのは、子どもを突然亡くした夫婦の悲しみを描いた『愛してるって言っておくね』。短編ドキュメンタリー賞は、第2次世界大戦中の元レジスタンスメンバーである実在のフランス人女性コレット・マリン・キャトリーヌさんを描いた『Colette(原題)』が受賞した(同作は、米Respawn EntertainmentとFacebookのOculus Studiosが共同制作したOculus端末専用VRアクションゲーム『Medal of Honor: Above and Beyond』に収録されており、VRゲームスタジオがアカデミー賞を受賞するのは今回が初となる)。脚本家、映画監督、俳優として活躍するタイラー・ペリーと、高齢の元映画関係者を対象とした介護施設や住宅施設を支援している慈善団体「Motion Picture and Television Fund(MPTF)」に映画業界の発展に貢献した人物・団体に贈られるジーン・ハーショルト友愛賞が贈られた。

Translated by Shoko Natori

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