「ヒップホップ回帰」の時代を象徴するJ・コールの大ヒット
小林:ただ「ラップは終わり、ロックの時代!」というわけではなく、ラップは今も圧倒的に強くて。
田中:2010年代後半はヒップホップの世界に新世代のマンブルラップが地殻変動を起こし、その後のエモラップを経て、ポストジャンルの象徴としてポスト・マローンが出てくる。そこでまた一気に地図が変わった。だから、今は「ポスト・ポスト・マローンの時代」(笑)。
小林:24kゴールデンやリル・ナズ・Xやキッド・ラロイは、ポスト・マローン以降、すっかりジャンルが溶解した後のラップ音楽。今はこの辺の勢いがすごい。
Lil Nas X / Montero (Call Me By Your Name)
The Kid LAROI / Without You
田中:だから、やっぱり去年年末のプレイボーイ・カルティの『Whole Lotta Red』は時代の変わり目を象徴する作品だったんだろうな――マンブルラップ最後の徒花というか。むしろ今、チャートで強いのはポストジャンル以降のラップと、リル・ベイビーとかダベイビーみたいなヒップホップへの回帰を感じさせる新世代。そんな機運の中で、デビューから6作連続で全米No.1アルバムを作り続けてきたJ・コールにさらに光が当たるのは時代の必然というか。
J.Cole - The Off-Season
小林:アメリカでの2021年アルバム初週売上のトップ3は、1位から順にオリヴィア、テイラー・スウィフト、そしてJ・コール。だから事実上、今年上半期のヒップホップのナンバー1がJ・コール。彼は2019年に自分はジェイ・Z世代とマンブルラップ世代の狭間にいる「Middle Child」なんだっていう曲を出したけど、そんな板挟みの苦しさを感じさせる空気はもうないですね。
J. Cole - MIDDLE CHILD
田中:「Middle Child」はラップがポップになった時代に対する違和感も表明してた曲だよね。産業的なインパクトを望む以前に、何よりもアートにフォーカスすることを明確に示したことが、今年の結果に間違いなく繋がってる。というわけで、改めて今年前半の主役は、BTSとオリヴィアとJコールの3組ということで。
小林:うん、異論はありません。