アメリカにだって建前はある。マリファナ販売店で超理論に遭遇

仮にあなたがディスペンサリーを訪れたとしましょう。年齢確認を済ませると、いろんな品種の乾燥大麻を筆頭に、リキッドやワックス、あとエディブルと呼ばれるチョコやクッキーやグミがカウンターに並んでいます。値段を聞くと「黄色いシールのは1/8オンスで35ドル、赤いシールのは60ドルだよ」と明快な答えが返ってきます(乾燥大麻は1/8オンス=3.5g単位で値付けされていることが多い)。しかし娯楽用途での営業販売はまだ認められていません。その値段は何なんだ。

するとスタッフが「何でも相談して。君にぴったりの品種を選んであげる」と言ってきます。これが符牒というやつです。「んーサイケデリックはほどほどでいいからよく寝付けるやつがいいな」とかなんとか言うと「ならインディカのこれがベストだね。もし巻くのがめんどうならプリロールもあるよ」なんてリコメンドが返ってくる。

「じゃあそれで。1/8(an eighth)ください」と言うとスタッフは「じゃあ彼のところに行って名前を呼ばれるまで待ってて」と言いながら、店内の別の一角にあるカウンターを指さします。そこでしばし待っていると名前を呼ばれ、「今日のカウンセリング料は35ドルです」とカウンターのあんちゃん。カウンセリング料? 訝しがりながら金額を支払うと「サンキュー。ところでこれはカウンセラーからのギフトです」とさっき指定したマリファナが手渡されるのでした。

ほーん、そういう建て付けね。勝手に日本人の得意技だと思い込んでいたヌルっとアクロバティックな超理論は、すっかり合法になる来年まで、言ってみればサナギの時間だけはしばし、ここアメリカでも通用するみたいです。

さて(ほぼ)合法化してみてどうよ、と聞かれると、ふたついいところがあったかな、と思っています。ひとつには、トレーサビリティが上がったことでワイン化が進んでいるのは、いいんじゃないかなと眺めています。いにしえのブラックマーケット時代を知る人に言わせると、昔はただ透明のパケに入った、何て品種かも誰が栽培したのかもよくわからないブツを売人から手渡されるだけで、ストレイン(品種名)なんて何の信頼性もなかったし再現性もなかった、と。

そんな闇鍋状態を変えたのが2010年に創業したLeaflyというスタートアップで、それまで各自が勝手に言ってるだけだった品種名を統一規格として整頓し、酩酊感や吸い味などについて定型フォーマットで採点していきました。たとえばウェディングクラッシャーという品種は集中が高まり多幸感と高揚感が少々、ヴァニラを中心にブドウと野イチゴのフレイバー、といった具合。またそのウェディングクラッシャーという品種はウェディングケーキとパープルパンチを掛け合わせたもの、といった作出情報も図鑑的にまとめ上げました。

Leaflyが業界標準になると消費者も販売者も生産者も皆このサイトを参照するようになり、ようやくストレインを吸い比べたり、違うファームで生産されれた同じ品種を吸い比べて生産者の格付けを行ったり、お気に入りを見つけて買い足したりできるようになりました。もうこうなってくると人々は、ピノがどうだガメイがどうだ、ドメーヌがどうしたシャトーがどうしたという、お馴染みの解像度遊びに興じることになります。

もうひとつには、たとえば日本でドラッグの話をする人からはどうしても一種のイキリみたいなものが垣間見えてしんどいことがあるけれど、合法化してしまえばそんなサグみは霧散します。サラリーマンでも主婦でも普通に買うものになってしまえばもうイキりようもないので、ただの酩酊アイテムとしてニュートラルに選べるようになってきたのはいいのかな、と。現場からは以上です。



唐木 元
ミュージシャン、ベース奏者。2015年まで株式会社ナターシャ取締役を務めたのち渡米。バークリー音楽大学を卒業後、ニューヨークに拠点を移して「ROOTSY」名義で活動中。twitter : @rootsy

◾️バックナンバー
Vol.1「アメリカのバンドマンが居酒屋バイトをしないわけ、もしくは『ラ・ラ・ランド』に物申す」
Vol.2「職場としてのチャーチ、苗床としてのチャーチ」
Vol.3「地方都市から全米にミュージシャンを輩出し続ける登竜門に、飛び込んではみたのだが」
Vol.4「ディープな黒人音楽ファンのつもりが、ただのサブカルくそ野郎とバレてしまった夜」
Vol.5「ドラッグで自滅する凄腕ミュージシャンを見て、凡人は『なんでまた』と今日も嘆く」
Vol.6「満員御礼のクラブイベント『レッスンGK』は、ほんとに公開レッスンの場所だった」 
Vol.7「ミュージシャンのリズム感が、ちょこっとダンス教室に通うだけで劇的に向上する理由」
Vol.8「いつまでも、あると思うな親と金……と元気な毛根。駆け込みでドレッドヘアにしてみたが」
Vol.9腰パンとレイドバックと奴隷船」
Vol.10「コロナで炙り出された実力差から全力で現実逃避してみたら、「銃・病原菌・鉄」を追体験した話」
Vol.11「なんでもないような光景が、156年前に終わったはずの奴隷制度を想起させたと思う。」
Vol.12「実際のところ日本のカルチャーがどれだけ世界的に流通してるのかっつうとだな」

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