NYドリルを担う新鋭たち

左から、Cash Cobain, Ice Spice, and Chow Lee(ILLUSTRATION BY SANDRA RIAÑO; PHOTOS BY CALIBER*; CK*; TRINECIA*)

Ice SpiceからCash Cobainまで、ドリルならではのリズムを操りながらとことん楽しく、魅惑的な音楽を世に送り出す次世代アーティストを紹介。

先日、ブルックリンのクラブ「Baby’s All Right」で、スピーカーからプレイン・ホワイト・T「Hey There Delilah」をサンプリングしたトラックが流れ、ブロンクス出身のラッパー兼プロデューサーCash Cobainの代表的なタグが聞こえてくると、会場はすでに興奮状態だった。

Cash Cobainと相棒Chow Leeは、「サンプル・ドリル」の定番曲で構成された約1時間のセットの主役だった。サンプル・ドリルとはドリル・ミュージックのサブジャンルで、インターネット上のミームのような軽さと引用文化を音で表現したものだ。Cobainは誰もが知る楽曲を激しいドリルのリズムに変換し、ニューヨークシティの「サンプリングの神」と呼ばれている。

Cash CobainやEvilGiane、Great Johnといったプロデューサーにとっては、メアリー・J・ブライジから(B-Loveeeの「My Everything」)タイニー・ティムの「Tip-Toe Thru the Tulips」に至るまで(Sleepy HallowとSheff Gの「Tip Toe」)、あらゆる楽曲が格好の標的になる。どっしりしたベースラインや軽快なハイハットの裏で、こうした楽曲のピッチを上げ、テンポをのばし、フィルターをかける。サンプリングを細かく切り刻む、あるいは手を加えてさりげなく聞かせるのが目的ではない。わかりやすいループをリスナーにはっきり聞かせることがポイントだ。

分類的な名称はさほど重要ではない。サンプル・ドリルと呼ぼうが、セクシー・ドリルと呼ぼうが、とにかく踊らずにはいられないジャンルだ。この夜はTata、Lola Brooke、Baby No Lackin、Lonny Loveといったアーティストが、暴力的な歌詞や痛烈なディスを好むドリルとは対照をなし、男女比がほぼ同率の会場は「Vacant」や「Watergun」といった純粋にセクシーな楽曲に酔いしれた。客席にいた女性がChow Leeとアドリブを繰り広げる一幕もあった。彼が「Jenni」という曲に乗せて、「賑やかで感情豊か」な女性を褒めちぎるフックを甘く囁いた時だった。

「OK! 他には?」と、その女性はステージに向かって叫んだ。

他の観客と同じく、その女性もアンコールをせがんだ。Chow Leeは胸元をあけたボタンダウンのシャツ姿(シャツの下はチェーンのネックレスだけ)、一方のCash Cobainはランバンの白シャツにルイ・ヴィトンの分厚い白のサングラスといういで立ちだった。似たようなサングラスをかけていた先駆者、チーフ・キーフやソウルジャ・ボーイを彷彿とさせる。



Translated by Akiko Kato

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