アークティック・モンキーズが語る『THE CAR』の進化、ギターの探求、The 1975への回答

アレックス・ターナー(Photo by ZACKERY MICHAEL)

 
アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)のフロントマン、アレックス・ターナーの最新インタビュー。最新アルバム『THE CAR』の制作背景、バンドとしての進化と現在のモードについて語る。

いまや名盤の呼び声高いアークティック・モンキーズのデビューアルバム『Whatever People Say, I Am, That’s What I’m Not』(2006年)の熱狂的で威風堂々たるサウンドを耳にした瞬間、シェフィールド出身の4人組バンドがUKロック屈指の偉大なバンドになることを誰もが確信した。

その一方で、ファンの期待や戸惑いはさておき、いつの時代も偉大なバンドには当初とは違う音楽性を探求する——その過程で新しい音楽が生まれることもある——という特権が認められてきた。アークティックも決して例外ではない。商業的な成功という点でも独創性という点でも、バンドの最高傑作と称されるクルーヴ満載のロックアルバム『AM』(2013年)は、彼らがカルチャーシーンを震撼させた最後のアルバムのひとつといえるだろう。その後、バンドは5年の沈黙の時代に突入。その沈黙を破った待望の6作目『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018年)は、華やかでありながらも前作とは大きく異なる、宇宙とラウンジがコンセプトのアルバムだった。

10月21日にリリースされた7作目のスタジオアルバム『THE CAR』でも、アークティックは威勢のいいロックサウンドをリスナーの顔面に叩きつけることよりも、前作で探求した高音質なサウンドスケープを掘り下げることに力を入れている。収録曲のほとんどは、豪華なストリングスとスティーリー・ダン級の艶やかなプロダクションが特徴的な、ゆっくり燃える炎のようなスローテンポの曲だが、前作と比べていくらかロック色も感じられる。

「バンドとしてのサウンドが変わったとは思わないけど、世間からああだこうだといわれるのも想像できる」と、アレックス・ターナーは話す。「僕らは、いまも本能的にバンドとしての可能性に挑み続けている。この気持ちがあるからこそ、バンドそのもののサウンドは変わっていないと思えるのかもしれない」



―『AM』後は、いわゆるスタジアム・ロックに対してバーンアウト的なものを感じていたのでしょうか?

アレックス:(ラジオDJの曲紹介の真似をしながら)それでは聴いていただきましょう。スタジアム・ロックのニューシングル『バーンアウト』!(笑)。たしかに、『AM』がロックアルバムであることは間違いない。でも、僕らのあいだでは、何かひとつのことをやり遂げたような感覚がずっとあったんだ。その後の活動休止期間が関係しているかどうかはわからないけど、また『AM』と同じ場所に簡単に戻れるとは思えなかった。スタジアム・ロックをやり尽くしたような気持ちはまったく感じなかったけど、何らかの方法でロックという方向に戻るよりも、僕たちが見出した別の道を進むほうが理にかなっていると思ったんだ。うまく説明できないけれど。

―以前、あの頃は自分ができる唯一のことをした、『AM』をそのまま進化させることは選択肢には入っていなかったとおっしゃっていましたね。

アレックス:そのとおりだよ。『AM』から距離を取るのは大切なことだった。僕はほかのプロジェクトにも携わったし、そういったものが結果として前作『Tranquility Base Hotel & Casino』という形になったんだと思う。正直にいうと、またバイカーブーツを履いて『AM』的なサウンドを模索しようとしたこともあったかもしれない。でも、そのとき頭の中にあったアイデアを形にしたとたん、なんだか悪ふざけをしているような気がしたんだ。でも、今後のことはわからないな。ブラック・サバスみたいな音楽は二度とやらないと宣言するつもりもないしね。だって、ニューアルバムにもスタジアム・ロックの片鱗を感じさせる瞬間があるから。

―ロックのサウンドを足したり引いたりしたんですね。

アレックス:(ニューアルバムの)収録曲には、フェーダーを使った曲もあるんだ。3曲目の「Sculptures of Anything Goes」では、ムーグ(アナログシンセサイザー)とドラムマシン、ボーカルがメインだ。でも、この曲にもロックバンドのスイッチが入っては、またバックグラウンドに消えていくような部分もある。

―前作と今作の大きな違いですね。

アレックス:ギターもいくらか歪んでいるしね。これは、メンバー全員でセッションしたおかげでもあるんだ。「Body Paint」終盤のディストーションをかけたロックギターのサウンドには自分でも驚いたよ。またメンバー全員で集まって楽器を弾きはじめると「いいね。もっとロックギターを掘り下げてみたいな」という気分になれた。



―バンドの楽器以外を使うことに対して、メンバー間の衝突のようなものはあったのでしょうか?

アレックス:(バンド以外の楽器を使うことを)メンバーに反対されたかどうかって? 時間が経つにつれて、違う音を取り入れることにみんなも積極的になっていった感じかな。パーカーのファスナーをいちばん上まできっちり閉めて、タイトなギターを弾いていたあの頃は、全員で一斉に演奏していたし、それが僕たちのやり方だった。でも、空間の効果に気づきはじめたんだ。だって、曲の中で自分が演奏していない時間があったとしても、自分がその曲を演奏していることに変わりはないから。

Translated by Shoko Natori

 
 
 
 

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