ブルーノ・マーズ来日公演を総括、明日への活力となる究極のエンターテインメント

音楽的背景と日本への愛情もアピール

時にステージ前方に躍り出てファンキーな快演でブルーノをサポートするのは、お馴染みのザ・フーリガンズ。しかも今回は、前回骨折のため来日できなかったブルーノの盟友フィリップ・ローレンスがサイド・ボーカリストとして復帰。ブルーノとフィリップの関係はジェイムス・ブラウンとボビー・バードを彷彿させるもので、この日もふたりのタイトな掛け合いを見ることができた。そのフィリップを含めてブルーノと横一列でステップを踏むのは、トロンボーンのキャメロン・ウェイラム、トランペットのジミー・キング、サックス/鍵盤のドウェイン・ダガー、そしてベースのジャマレオ・アーティス。キャメロンとジミーはフィリップとともにコーラスも兼ね、忙しい役回りを楽しげにこなす。ステージ前方で踊るメンバーの大半が足元をVansのスニーカー(オールドスクール)で揃えていたこともあり、西海岸のスケーター的な躍動感も視覚的に加味された。特にファンク系の曲をやる時の彼らは“ブルーノ・マーズ&ザ・フーリガンズ”と呼びたくなるほどのバンド感があり、モーリス・デイをフロントに据えたザ・タイムを見ているような気分にもなる。


(C) Bruno Mars

ライブでのパフォーマンスがスタジオ録音のバージョンと同じクオリティであるとも言われるブルーノだが、「Perm」ではイントロがマイアミ・ベース調(トリーナの「Pull Over」だとの声も)だったりと、ライブならではのアレンジが加えられた曲もあった。ハワイ出身のブルーノらしいジャワイアン(ハワイアン・レゲエ)な感覚が際立つトラヴィー・マッコイへの提供曲にして客演曲「Billionaire」は、背後でラスタ・カラーのライトを点滅させ、原曲よりも少しダビーな雰囲気で演奏。また、「That’s What I Like」では、“I’m talkin’ trips to Puerto Rico”と歌う部分をサルサのリズムに変えるなど、ブルーノの人種的、音楽的バックグラウンドをさりげなく伝える芸の細かさも心憎い。

アルバム『24k Magic』の2曲目に登場するミッド・グルーヴのR&Bチューン「Chunky」は、憧れのマイケル・ジャクソン『Thriller』における「Baby Be Mine」的な機能を持つ。スタジオ録音版と同じく軽快に歌われたこれを聴きながら、ブルーノが普遍的なポップ・シンガーにして優れたR&Bシンガーであることにも改めて感じ入った。とりわけ、グッチ・メイン/コダック・ブラックとのコラボ曲「Wake Up In The Sky」に続くカーディ・Bとの共演曲「Please Me」でシャウトを交えて猛烈に歌い込む姿は、この曲の着想源であるはずのシルク「Freak Me」やR・ケリー「Sex Me」を思い出さずにはいられない。実際に今回のライブでは、曲終盤で「Freak Me」の“Baby,don’t stop”というフレーズを交えた熱いフェイクを披露。今では名前を出すことも躊躇われるR・ケリーからの影響についてはブルーノも公言しないだろうが、90年代R&Bに思い入れがある彼らしいセクシャルで濃厚な歌世界の再現は見事で、観ているこちらも思わず力が入る。

この投稿をInstagramで見る

Mateus Asato(@mateusasato)がシェアした投稿


ダンスの列には混ざらずバックで黙々とギターを弾いていたのが、ブルーノの来日公演には初参加となるマテウス・アサトだ。SNSでの演奏動画で人気を集めた彼は、沖縄にルーツを持つ日系ブラジル人ギタリストで、トリー・ケリーやジェシー・Jのツアーへの参加歴もある28歳の才人。彼がビブラートを効かせて弾く神秘的なギター・ソロを導入部にした「Versace On The Floor」は、今回のライブで最もロマンティックなシーンだろう。ドームを埋め尽くす観客がスマホのライトを点灯し、満天の星を見上げるように歌うブルーノ。80年代のハッシュ・サウンドを思わせる懐かしいフィーリングを湛えたR&Bバラードをスウィートかつ力強く歌い上げる姿もたまらない。この流れで「キミヲトテモアイシテル(君をとても愛してる)」と日本語で歌った小品は、フィリップたちとハーモニーを奏でるドゥーワップ調。これを聴きながら、かつて父親が日本から持ち帰った山下達郎(同日にNHKホールでライブが行われていた)の『ON THE STREET CORNER』をカセットで愛聴していたという話を思い浮かべた人もいるかもしれない。そんな歌からの「Marry You」への流れがこれまた見事で、このポップで爽やかな甘さと言ったらない。

ドラムはブルーノの実兄エリック・フェルナンデス。ガッツリとタトゥーの入った太腕でボトムを支える彼のドラム・ソロも披露され、「Runaway Baby」へと続いていく。ここでのブルーノは、セクシャルな腰使いも含めて最愛のアイドルであるエルヴィス・プレスリーに迫るロックンローラーぶりで、過去の公演同様、足を踏み鳴らし、拡声器で叫ぶなど、ハイテンションで動き回る。途中で音をミュートし、スポットライトでマイケル・ジャクソンのようなシルエットを浮かばせれば、ホーンのリフとシンクロするようにジェイムス・ブラウンのようなリズミカルな足捌きで前後にスライドもする。「ガッタガッタ」というシャウトはオーティス・レディング、エキサイティングな熱唱はジャッキー・ウィルソンへのオマージュとも受け取れ、ロックンロールのルーツはリズム&ブルースにあるとでも言わんばかりだ。故郷ハワイで幼い頃から観光客相手にパフォーマンスをしていたショウマンシップが最も色濃く滲み出たシーンだろう。いったい彼の体の中には何人のレジェンドが宿っているのか。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE