『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』がMCU史上最高の続編となった理由

冒険的な新キャラクター、シリーズが抱える難しさ

繰り返し言うが、誰もがヴィブラニウムを狙っている。ワカンダからヴィブラニウムが得られないなら、ほかを当たるまでだ。『ブラックパンサー』級の世界的に有名なシリーズには、大勢の人を映画館に向かわせる本来の目的であるシリーズならではの楽しさを残しながら、ストーリーを前進させ、何か新しいものを提供するという難題がつきものだ。この点に関して、本作は冒険的といえる。本作は、世界規模の対立に新しいキャラクターを加えることで前進を図った。キャラクターの名はネイモア(テノッチ・ウエルタ)。南米大陸の古代文明の神を想起させる、タロカンという古代王国の国王だ。原作コミックでは、ネイモアは海底都市アトランティスの王子という設定になっているが、これは本作の中でネイモアが果たす役割をほのめかしているのかもしれない。本作では、アトランティスの王子という設定の代わりに、メソアメリカを思わせる生い立ちに、ある意味ワカンダの好敵手ともいうべき疑念や野心といった要素が加えられている。だが、『ブラックパンサー』らしさがにじみ出すのはここからだ。前作でマイケル・B・ジョーダンが演じたキルモンガーのように(その名前からして、心の中で燃え盛る怒りを想起させる)、ネイモアはワカンダの平和主義に不満を抱いている。それだけではない。ネイモアは、ワカンダと同じくらい強力なのだ。アフリカの奥地にある黒人の超文明国ワカンダは、初めて自分にふさわしい敵を見つけた。

ここまでは、前作のストーリーとも矛盾していない。前作とその続編である本作は、世界におけるワカンダのポジションがそうであるように、特殊でありながらも多様な矛盾をうまく利用している。誇り高いワカンダが世界屈指の強国であることは間違いない。それはヴィブラニウムという特殊な金属の原産国だからということもあるが、それ以上にヴィブラニウムの活用方法を理解している、天才的な頭脳を持つ人材が揃っているからだ。本作は、こうしたキャラクターたちを見事に描き出している。だが、ワカンダはいまだに全世界に不審の目を向けている。ワカンダの人々は、植民地化された歴史を忘れていないのだ。『ブラックパンサー』シリーズがほかのヒーロー映画と一線を画す理由のひとつは、超大国という地位とそれを失うことへの限りない恐怖という緊張感を巧みに描き出している点にある。だからこそ、ネイモアの主張には説得力がある。幼少期に母国が植民地化されるのを自分の眼で見てきたネイモアは、他国から侵略されることの意味を身をもって知っている。ヴィブラニウムは、石油のような資源といえるかもしれない。石油は超大国の条件というよりは、国を脅かすターゲットなのだ。誰だって、ターゲットにはなりたくない。


オコエを演じたダナイ・グリラ(写真左)とシュリを演じたレティーシャ・ライト(写真右)。ふたりとも同じ役で続編に復帰した。(Photo by ELI ADÉ / MARVEL STUDIOS 2022)

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は上演時間2時間40分の大作だが、その大部分は称賛に値する。前作と比べてキャストの使い方も見事で、それぞれのキャラクターにさらなる深みが加わった。威厳に満ちたグリラの演技がさらに堂々と輝く一方で、ライトのひねりの効いたユーモアにも磨きがかかっている。デュークの知恵とバセットの遊び心、さらにはドミニク・ソーンやドラマ『I May Destroy You』(2020年)のミカエラ・コエルといった新しい顔ぶれも『ブラックパンサー』シリーズにとっては新鮮な要素だ。本作はいろんな意味でダークな作品で、前作よりもビジュアル面で暗く、マーベル・スタジオの人気シリーズとしては珍しいほど重たい雰囲気に包まれている(それでも、時折登場するコミカルなシーンは大歓迎だ)。技術的なことも、必ずしも思い通りに運ぶとは限らない。中盤で繰り広げられる壮大なバトルは、パーソナルな側面に焦点を当てた本作にはふさわしくない、冷たい印象を与える。切れ味という点では、バトルよりも会話のシーンのほうがシャープに思えることも多々あり、観客は戸惑うかもしれない。クーグラー監督——現時点での最高傑作は『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)——は、全編を通して素晴らしい仕事をしているが、その中でもネイモアとの出会いのシーンは秀逸だ。海底でのミッション中に起きるこのシーンは、謎という感覚を掻き立てる。だが本作は、時折不安定なところを見せる。入り乱れるさまざまな感情と向き合おうとする複雑な作品としては、自然なことなのかもしれないが。

私たちがいま生きている世界では、過激主義者やもっとも先進的な考えを持つ革命家は、暴力に対する大胆不敵な態度とともに描かれる。こうした人たちは、暴力を必要なものと考えているのだ。ねらいは、世界を壊して再建すること。これは、超大国としての力をそのように利用することを拒むワカンダにとっては受け入れ難いビジョンである。本作を観ていると、誰を応援するのがもっとも公平なのか?とわからなくなることがある。CIA(マーティン・フリーマンがエヴェレット・K・ロス役に復帰したのに加えて、思いもよらないカメオ出演も用意されているが、ここでのネタバレは控えておこう)が絡むシーンは特にそうだ。こうしたシーンで、本作は苦戦している。ワカンダと「協力的な入植者」の関係は、若干馴れ馴れしさを感じさせ、ほかのストーリーに注ぎ込まれた丁寧さをまったく感じさせない。これは、現時点における本作の特徴でもある。悪者がいる一方で、それよりも悪い連中がいる。観客が応援するべき対象は明らかだが、その理由を一度疑ってみるのも悪くないかもしれない。

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『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
全国公開中
監督:ライアン・クーグラー
製作:ケヴィン・ファイギ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©︎Marvel Studios 2022

Translated by Shoko Natori

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