筋肉少女帯がオーディエンスと完成させた“光”の威力

あわやキャンセルの危険もあったという40年前の初ライブについて大槻と内田が語り、「40年、不思議だね」という感慨深げな言葉からは、40年の奇跡を感じさせるシーンが次々と。歳月を経たからこその歌声が味わい深さを伝える「きらめき」では、客席を見上げる本城聡章(Gt)に橘高が寄り添い、一緒に笑顔で手を振る姿に文字通りの“きらめき”を感じさせられる。一転、映画のような物語を想起させる「機械」では大槻が放つ歌のエモーションと、客席から振り上がるペンライトの勢いが急速にシンクロして、曲が終わると万雷の拍手が! 分厚いヘヴィロックの先で神秘的なピアノとリフレインが神託のように降り注ぐ「ディオネア・フューチャー」といい、この恍惚たる一体感こそ、バンドとファンが筋肉少女帯という存在に対して積み上げてきたキャリアと想いの為せる奇跡に違いない。


内田雄一郎

さらに、筋少ならではの不穏な世界観も存分に。映画『時をかける少女』の挿入歌カバーで、本城と内田が原田知世役として台詞を担当した「愛のためいき」では、ピアノとアコースティックギターが紡ぐ音色の美しさにもかかわらず、アウトロの台詞ひとつで底知れぬ恐怖を与えるのが流石。また40周年記念作のカップリング曲で、34年前の空手バカボンの楽曲をセルフカバーした「KEEP CHEEP TRICK」も、キーを下げたことでブルージーな大人の色味を増したぶん、大槻の一人大喜利や“凡庸な人々よ”という無感情なリフレインが空恐ろしく、観る者の背筋を震わせる。だからこそ印象的だったのが、比較的直近の曲である「宇宙の法則」の健やかさだ。悲しい現実は変わらないとしても、あるがままを受け止めようとする歌詞のスタンスには安らぎさえ感じ、“来世でも再びお逢いしましょう”というフレーズの響きも清らかに。着席してペンライトを振るオーディエンスが纏う温かな空気も先ほどまでとは明らかに違っており、これこそ“今”の筋肉少女帯が新たに得た武器なのだと実感させられる。



「コール&レスポンスではない、光の海という筋肉少女帯のライブが完成された、重要なツアーだったと思うんだよね」(大槻)と今ツアーを振り返ってからの終盤は、その“光”の威力を鉄板曲で思い知らされることとなった。「イワンのばか」で正確無比なビートを刻む長谷川、大胆かつ華麗に鍵盤を奏でる三柴、勢いよく掛け声を放ちながら輝くペンライトでベースを弾く内田、客席を見渡して体中でコミュニケートする本城、頭だけでなくギターもブンブン振り回して舞う橘高とくれば、オーディエンスは熱狂。体感温度も一気に上がり、さらに「君よ!俺で変われ!」から「サンフランシスコ」へと雪崩れ込めば、待ってましたとばかりに突き上がるペンライトの勢いも半端ない。そして橘高と本城がポジションをスイッチすれば、上手がピンク、下手が青と、それぞれ迎え入れたギタリストのカラーに客席が染まるという衝撃的な光景が! さらにベースソロへと続くと内田カラーの緑にチェンジして、目に見える形でライブに参加するオーディエンスの柔軟性たるや、お見事の一言だ。


本城聡章

その景色に「素晴らしい!」とペンライトを回す大槻が「ありがとう! 感謝します!」と贈った本編ラスト曲は「いくぢなし(ナゴムver.サイズ)」。40周年を迎えた記念作の制作にあたり他アーティストとのコラボを考えていたところ、「一番ブッ飛んでいる若者は過去の自分たちだった」という発見から叶ったセルフカバーは、ポエトリーリーディングと激情ヴォーカルが交錯するカオスな原曲を踏襲して、若さゆえの衝動と手練れの成熟が共存するものに。最後はリリースから37年を経た今の目線で締めくくるかと思いきや、さらに当時の音源をサンプリングして若き日の自分が“この根性なしが”と今の自分を断罪するという仕掛けも鮮烈で潔い。

Rolling Stone Japan 編集部

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