追悼・ジェフ・ベック 世界を魅了したギタリストの軌跡

ジェフ・ベック・グループ解散後、ベックはヴァニラ・ファッジのベーシストのティム・ボガートとドラマーのカーマイン・アピスとともに新しいバンドを結成しようとしたが、交通事故の怪我——頭蓋骨骨折——によって活動開始まで1年半のブランクができてしまった。その間、ベックは以前から関心のあったモータウン・サウンドを掘り下げ、スティーヴィー・ワンダーの『Talking Book』(1972)のレコーディングセッションにも参加した。ある日、ベックがスタジオでドラムを叩いていると、ちょうどワンダーが入ってきた。ベックのグルーヴ感を気に入ったワンダーがこれを軸に作曲したのが「Superstition」だ。そのころ、ボガートとアピスは別のバンドで活動していたため、ベックは別のメンバーとともにジェフ・ベック・グループを再編成。前作よりもファンキーな2枚のアルバムを世に送り出した後、1972年にスーパートリオ、ベック・ボガート&アピス(BB&A)がようやく実現した。バンドは約2年という短命に終わったが、ベックはBB&Aがカバーした「Superstition」は「素晴らしいヘヴィーメタルソングだ」と回想する。



ソロアーティストとして音楽シーンに復帰したベックの関心は、ブルース・ロックからインストゥルメンタル・ジャズ・フュージョンに移っていた。1975年のアルバム『Blow by Blow』は米国音楽チャートで4位にランクインし、100万枚以上のセールスをあげて世間を驚かせた。同作のプロデューサーを務めたのは、ビートルズのプロデューサーのジョージ・マーティンだ。後にベックは、自らのキャリアの救世主としてマーティンへの感謝の気持ちを語っている。「聴いた瞬間、この部屋にバンドがいるような臨場感だと思った——クリアで、素晴らしい音だった」と、ベックは同作のサウンドについて振り返った。「最初のアルバムは、まさに喜びそのものだった」。同年にマハヴィシュヌ・オーケストラとともにツアーを行い、1976年にマハヴィシュヌ・オーケストラのキーボーディストのヤン・ハマーとの共作『Wired』をリリース。その後は数年間活動を休止し、1980年にふたたびハマーとタッグを組んで『There and Back』をリリースした。

>>関連記事:ジェフ・ベックが語る、ジョージ・マーティンとの思い出:「彼が僕にキャリアを与えてくれたんだ」

自分がギターオタクとして忘れ去られることを恐れたかどうかはわからないが、ベックは1985年にアルバム『Flash』をリリースする。同作に収録されたスチュアートとのコラボ曲「People Get Ready」は、大成功を収めているが、その一方で同作の収録曲「Escape」は、翌年のグラミー賞の「最優秀ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス」を受賞。さらに4年後には、『Jeff Beck’s Guitar Shop With Terry Bozzio and Tony Hymas』がグラミー賞に輝いた。

「いまでもギターがキングと見なされていることに喜びを感じた部分はある」と、以前ベックは80年代について語った。「ギタリストたちは、ギターという偉大な旗を掲げているんだ。(中略)私は、スティーヴ・ヴァイやエディ・ヴァン・ヘイレンというギタリストをとても尊敬している。素晴らしいギタリストだ。彼らは、自由に好きなことをやればいい。私のスタイルを侵食しない限りは。幸い、そうはならなかった。だから私は嬉しいんだ」

その後もベックは、ゲスト・ミュージシャンとして80年代を駆け抜けた。ティナ・ターナーやミック・ジャガー、ジョン・ボン・ジョヴィといったアーティストのソロアルバムにゲスト出演したのだ。その一方で、ソロアーティストとしてかつてのような成功を手に入れることができず、苦しい時期が続いた。90年代には『Crazy Legs』(1993)でロカビリーを追求したかと思えば、『Who Else!』(1999)ではテクノに挑戦するなど、その音楽性は定まることがなかった。



ギタリストがお気に入りのギタリストについて語るローリングストーン誌の特集記事の中で、かつてスラッシュは次のように語った。「ギタリストであれば、ベックのギタープレイの凄さを理解するのは簡単なことだ。ベックは、驚くべき自然さでギターをコントロールしている。この才能のおかげで、彼は聴いたことのないようなプレイを実現できるんだ。子供のころ、俺は『Blow by Blow』をよく聴いていた。ラブソングを演奏していたかと思うと、耳をつんざくようなヘビーでハードなロックギターをかき鳴らす。それも、絶妙な塩梅で」

Translated by Shoko Natori

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