カッサ・オーバーオールを紐解く4つの視点 Tempalay藤本夏樹、和久井沙良、MON/KU、竹田ダニエル

カッサ・オーバーオール(Photo by Patrick OBrien Smith)、(写真右・上から)Tempalay藤本夏樹、和久井沙良、MON/KU、竹田ダニエル

 
ジャズの未来を切り拓く鬼才ドラマー/プロデューサー、カッサ・オーバーオール(Kassa Overall)の最新作『ANIMALS』が大きな話題を集めている。今年10月には東京・大阪での来日公演も決定。ここでは藤本夏樹(Tempalay)、和久井沙良、MON/KU、竹田ダニエルの4人に、彼のアルバムを「どう聴いたか」寄稿してもらった。

※ジャズ評論家・柳樂光隆監修『Kassa Overall Handbook』より転載

▪️Index
P1. 藤本夏樹(Tempalay)
P2. 和久井沙良
P3. MON/KU
P4. 竹田ダニエル

【関連記事】カッサ・オーバーオールの革新性とは? BIGYUKI、トモキ・サンダースが語る鬼才の素顔




1. 藤本夏樹(Tempalay)


ベッドライトを買ってから、部屋が暖かくなって、そして影も増えた。しかし時おり、その影を見つめていると、かえってその暗闇が美しく感じることがある。その理由を解き明かそうとしながら、あと一歩のところでひとは眠りに落ちる。そのとき流れる子守唄。 Tempalayのドラマーとしても活動。





今回のアルバムでまず最初に耳にしたのは先行配信曲であるM5の「Make My Way Back Home」だった。楽曲自体は10+6拍子で進んでいるが、決してドヤ感のある変拍子ではなく自然と体を動かしたくなるようなグルーヴがあり、Kassaのリズム感に惚れ惚れしてしまった。

その後アルバムを頭から順に聴いてみたのだが、先行曲とはまた違うアプローチで楽しませてくれる楽曲群が並ぶ。10秒ほどの不穏なインストであるM1から続くM2は、冒頭から所謂ジャズ・ヒップホップ的サウンドとは一線を画したビートになっており、その後も多数のチョップやブレイクの連続で、フライング・ロータスやスクエアプッシャーに影響を受けたというのも納得の出来だ。ただそこにも確実にドラマーとしてのリズム感が反映されてるのがKassaの新しいところかもしれない。



M3では決して綺麗な音とは言えない、皮の伸び切ったようなドラムによるルーズなビート(自分の大好物)にキレのあるラップが乗り、これまた空間が歪んだような不思議な感覚が癖になる。

続くM4ではKassaのドラムプレイを存分に楽しめるのだが、これが彼にとって心地よくドライブ出来るリズムなんだと認識する事で、他の曲に感じる掴みどころがなく心地よい浮遊感に改めて納得がいく。この流れで聴くM5にはもはや身を委ねたくなるような安心感とポップネスを感じる。

そこから雰囲気はやや変わり、M6ではCR78、M7ではTR-808といったリズムマシンのサウンドが入ってくるが、どちらも揺れのあるKassaの人力プレイとホーンが上手く融合して全く飽きのこない楽曲に仕上がってる。バランス感が素晴らしい……。M8では急にゴシック調とでも言うべきか、メラニー・マルティネスやSub Urbanとも通ずるサウンドになっている。アルバムの中では難解さも少なくノりやすい楽曲だが、ラストのストリングスが途切れるタイミングにやはり捻くれを感じるのが面白い。

その後は終わりの始まりとも言うべきインストのM9から、ストリングスやピアノで構成されたM10になるが、これまた決して綺麗な音ではなくざらつきがあるところにセンスを感じる。中盤から入ってくる声の音の割れ方にはビックリしたが(笑)、恐らくiPhoneのマイクで録っているのだろう。M11もM10から続くようなピアノの旋律がメインとなっていて、そのままアウトロからM12に続いていく。

最後は、今までなかったような開けたサウンドと伸びのあるヴォーカルで少し胸の温まるような曲だ。映画のエンドロールのような美しさで終わっていくが、やっぱり最後の最後でお茶目な終わり方してて……本当に愛せる人だなぁ……。はぁ……緊張と緩和のバランスが素晴らしく、没頭しているとあっという間に終わってしまう。綺麗な物が全てじゃない。枠組みなんて必要ない。そんなサウンドが作品のテーマともリンクしているのかも知れない。

Kassaの"いびつさ"の美学を感じるアルバム。素晴らしい音楽をありがとう!

 
 
 
 

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