カッサ・オーバーオールの革新性とは? BIGYUKI、トモキ・サンダースが語る鬼才の素顔

カッサ・オーバーオール(Photo by Patrick OBrien Smith)、BIGYUKI(@ogata_photo)、トモキ・サンダース(eBar)

 
カッサ・オーバーオール(Kassa Overall)が名門Warpから発表した、最新アルバム『ANIMALS』が大きな話題を集めている。今年10月には東京・大阪での来日公演も決定。ここでは彼の作品/バンドに参加してきたBIGYUKIとトモキ・サンダースに、鬼才ドラマー/プロデューサーの素顔を語ってもらった。

※ジャズ評論家・柳樂光隆監修『Kassa Overall Handbook』より転載





BIGYUKI

カッサは「水のような」アーティスト


キーボード奏者/作編曲家。本名は平野雅之。高校卒業後に渡米し、バークリー音楽院へ入学。ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントンからア・トライブ・コールド・クエスト、J・コールまで第一線のミュージシャンと共演。最新作は2021年リリースの『Neon Chapter』。(Photo by @ogata_photo)


カッサは3Dで考える脳があるアーティスト。ファッション、フライヤーのデザイン、写真の撮り方、ライヴでのステージの演出、すべてに独特な世界観がある。

最初にすごいと思ったのが2020年のミックステープ『Shades of FLU』。カッサが昔のブルーノートの音源をリミックスして、すげぇグリッチーにしたりしている。これがメチャクチャかっこいい。そもそもカッサとがっつり話すようになったきっかけがポール・ウィルソン(『Neon Chapter』の共同プロデューサー)で、カッサとポール、シオ・クローカーも似たマインドのアーティスト。俺とポールが『Neon Chapter』の“LTWRK”を一緒に作っているときにスタジオにカッサが遊びにきて、カッサがスタジオで踊ってたり、「Let it Go」で俺が小さいMIDI鍵盤を弾いているのを見て「今のヤバい」とか言ってた。それで俺のことを面白いやつだなって認識したんだと思う。




前にロンドンに1週間くらい滞在したとき、リチャード・スペイヴンやロイル・カーナーと一緒にスタジオ入ったりしてたんだけど、たまたまカッサがロンドンにいて「スタジオ取ってあるから遊びに来なよ」って言ってくれて。そのとき遊びに行って弾いた演奏が、『ANIMALS』でローラ・マヴーラが歌っている「So Happy」に使われている。カッサはたまたま俺とタイミングが合ったから一緒にやるって感じで、そうでなければ別のことをやる人。絶対に無理やり決めたことをやるんじゃなくて、常に水のような感じのアーティストだと思う。演奏に関してはカッサが多少イメージを伝えてきたけど、基本的には俺のセンスで弾いたものを一番面白がってくれる。俺としては何回か試して、そろそろ本気でやるかと思ったら、カッサが「もう大丈夫」って(笑)。素材として使うんだろうし、彼なりのバランス感覚があるんだと思う。(演奏した)ミュージシャンがいいと思うものと、大きな目で音楽として聴いたときにちょうどいいものは違うからね。カッサはプロデューサーの脳だから。



2023年の『SHADE 3』でも俺は弾いてるんだけど、カッサが俺の家に来て録音したりしたことがあって、それが使われている。彼はいろんなものを最後に組み合わせるから、レコーディングの段階で「この曲を弾いた」ってイメージがない。俺はバラバラな感じでやった認識なんだけど、カッサは大きい視点で見ていて、彼がほしいものを録ったんだと思う。俺から引き出す方法があって、気負わせずに、硬い演奏にならないように、常に柔らかくて自然なもの、こぼれてしまう「Swag感」を掬い取ろうとしていたんじゃないかな。いたずらっぽい演奏をするところがほしいというかね。

『ANIMALS』でヴィジェイ・アイヤーと曲を作った方法が面白くて、ヴィジェイにちっちゃいシンセのおもちゃみたいなのを渡して、それでフリーでインプロをさせて録音。あとで聴き直して、その中のいいモチーフをもとに作曲したらしい。カッサは常に考え方が面白いんだよ。『ANIMALS』はヤバくてぶっ飛ばされた。近年でも特にやられた音楽だし、こんなかっこいい音楽あるんだって。彼のヴィジョンが次のレベルに到達した、このアルバムでカッサは彼がいるべき場所に行くんだなって思ったよ。



 
 
 
 

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