BAND-MAID結成10周年ベスト盤クロスレビュー HR/HMと越境的な配合が生んだ個性

BAND-MAID

BAND-MAIDが結成10周年を記念したベスト・アルバム『10th Anniversary Best』をリリースした。文字通り彼女たちの10年の軌跡を網羅した本作は、インディーズ時代〜メジャーデビュー後の日本クラウン在籍時〜ポニーキャニオンへのレーベル移籍以降の楽曲からチョイスされた30曲をリマスタリングした2枚組。8月4日には米国3大野外フェスのひとつ「Lollapalooza Chicago」出演に加え、メキシコ含む北米ツアーを8月に再度開催するなど世界基準で活躍するBAND-MAIDのベストアルバムについて、西廣智一、s.h.i.という二人の音楽ライターによるクロスレビューで深掘りする。

1. 楽曲変遷から辿るBAND-MAIDの10年
西廣智一

2013年に結成され、今年で結成10周年を迎えるBAND-MAIDが初のベストアルバム『BAND-MAID 10th Anniversary Best Vol. 1』および『同 Vol. 2』を同時リリースする。レーベルの枠を超え、これまでのキャリアを総括した全30曲は、単なるシングルコレクションとも異なる、“ライブバンドBAND-MAID”の姿がわかりやすい形で投影されたものとなっており、これからBAND-MAIDに触れてみようと思っているビギナーにうってつけの内容と言えるものだ。





このレビューでは彼女たちの歴史を振り返りつつ、ベストアルバム収録曲やそれらの楽曲が初出となったオリジナルアルバムに触れながら、BAND-MAIDの魅力を紐解いていきたい。

2014年1月に1stアルバム『MAID IN JAPAN』でデビューしたBAND-MAIDが、その後に進むべき道筋を見つけたのは2015〜16年頃のことだったと記憶している。同作に収録された楽曲はアレンジにこそバンドが携わっているものの、作詞・作曲に関してはすべて外部のソングライターが担当。音楽的には現在に通ずるハードロック的なテイストを含みつつも、ジャンルをひとつに固定することなく、より幅広い層に届けようとする姿勢が見受けられた。そして、同年8月に1stシングル『愛と情熱のマタドール』を発表するのだが、同作に収録された1曲がその後の彼女たちの運命を大きく左右することになる。



その曲こそが、のちに2ndアルバム『New Beginning』(2015年)にも収録されることになる「Thrill」だ。この曲もアレンジにこそバンドが関わっているものの、作詞・作曲はメンバーの手によるものではない。しかし、低音を強調したKANAMI(Gt)&小鳩ミク(Gt, Vo)によるヘヴィなギターリフ、地を這うような重たいグルーヴで演奏を牽引するAKANE(Dr)&MISA(Ba)のリズムアンサンブル、そして初々しさの中にも艶やかさが感じられるSAIKI(Vo)の歌声……これらが融合することで生み出される独特のサウンド感が、日本よりも先に海外で高く評価されたことで、BAND-MAIDがここから生み出していくべき音楽に対する自信は、より確かなものへと変わったはずだ。



筆者がBAND-MAIDに初めてインタビューしたのは、通算3作目のアルバム『Brand New MAID』(2016年)を完成させた直後の、2016年春のことだった。当時のインタビューでも、彼女たちは「Thrill」のMVがアメリカのオンラインラジオ/メディア『Jrock Radio』で紹介されたことを受け、海外からも注目が集まり、2016年3月には初の海外“お給仕(=ライブ)”がアメリカのイベント『Sakura-Con』が実現。約3000人もの現地の“ご主人様お嬢様(=ファン)”を、そのギャップの強いビジュアル&サウンドで魅了させた。その後にはメキシコやイギリス、ドイツ、フランスなどを回るワールドツアーも実現。また、『Brand New MAID』以降の作品がメジャー流通されたこともあり、国内での認知度も徐々に高まっていき、『NAONのYAON』や『ARABAKI ROCK FEST.』などのロックイベントへ出演する機会も急増していった。

先にも書いたように、初期3作のアルバム(今回のベストアルバムで言えば、「Thrill」を筆頭に「REAL EXISTENCE」「Shake That!!」「the non-fiction days」「FREEDOM」あたり)では外部ソングライターから提供された楽曲を、メンバー5人が納得のいく形でアレンジを加えることで、オーソドックスなハードロックや90年代以降のJ-ROCKの影響下にあるダイナミックなサウンド/アンサンブルを聴かせているBAND-MAID。そんな彼女たちの“個”がより強固なものへと確立され始めたのが、世に出たものとしては初のバンドオリジナル曲「alone」からではないだろうか。



それまでも何度かオリジナル曲制作に挑んできた彼女たちだったが、スタッフからなかなかOKをもらえずにいた中、ようやく納得のいく1曲として3rdアルバム『Brand New MAID』に収録。楽器隊の技量の高さが随所から感じられる演奏やアレンジ、ハードかつ焦燥感の強いサウンドの中できらりとひかるエモーショナルなメロディ、そしてSAIKI&小鳩によるツインボーカルという、以降のBAND-MAIDにおける大きな武器を自分たちのものにし始めた、「Thrill」に続く“はじまりの1曲”なのかもしれない。



その後、BAND-MAIDは4thアルバム『Just Bring It』(2017年)にて収録曲全13曲中9曲をメンバーのみで制作。そのほか2曲の作詞に小鳩が携わっており、ほぼ全曲に近い形でメンバーによるオリジナル曲が収録されることで、 “BAND-MAIDらしさ”の純度をより高いものへと昇華させることに成功している。事実、このアルバムでは国内外でのお給仕やツアーでの経験が色濃く反映され、これまで以上にライブ映えする楽曲が豊富だ。今回のベストアルバムで言えば、「YOLO」や「Don't you tell ME」「Puzzle」「secret My lips」がそのフェーズに当てはまる楽曲群だ。



通算5作目のアルバム『WORLD DOMINATION』(2018年)では、通常盤ボーナストラック「ハニー」(MUCCのカバー)を除く全14曲の作詞・作曲にバンドが関わるまでに成長。“世界征服”を意味するアルバムタイトルからもわかるように、BAND-MAIDというバンドの強気な姿勢がダイレクトに投影された楽曲の数々は、演奏力/アレンジ力の成長もさることながら、SAIKIや小鳩のボーカリストとしての成長も随所から感じ取ることができる良質な仕上がりだ。作品を重ねるごとにパワフルさと有無を言わせぬ説得力が備わり始めたSAIKIの歌声はもちろんのこと、「Rock in me」でリードボーカルを務める小鳩の“可愛らしさの中に潜む凄み”が伝わるボーカルも聴き逃せない。なお、今回のベストアルバムには未収録だが、前作『Just Bring It』に収録された小鳩ボーカル曲「TIME」も必聴の1曲なので、機会があったら耳にしてもらいたい。



“世界征服”を掲げ前進を続けるBAND-MAIDは、“征服者”を意味するタイトルの6thアルバム『CONQUEROR』(2019年)でも攻撃の手を緩めることはなかった。「glory」や「Bubble」といったTOP20ヒットシングルを含む本作は、すべての楽曲の作曲・編曲をBAND-MAID名義で手がけ、(今回のベストアルバムには未収録だが、この曲はSAIKIも大ファンのデヴィッド・ボウイと幾度も共作してきたトニー・ヴィスコンティがプロデュースした)英詞曲「The Dragon Cries」以外の作詞を小鳩が担当するという、限りなく純度100%に近いBAND-MAIDサウンドを堪能することができる。先の「Bubble」を筆頭に、「endless Story」や「Blooming」「輪廻」といった楽曲では、時代を超越した“極太かつ豪快な”ハードロックサウンドが展開されており、聴き手が呼吸するのを忘れてしまうほどの圧倒感をたっぷり味わうことができる。

『CONQUEROR』を携えたお給仕を重ねていく中、2020年に入るとバンドは初の日本武道館での単独お給仕を2021年2月11日に開催することを発表する。しかし、時を同じくして未知のウイルスが世界中で猛威をふるい、エンタメ界の状況が一変。相次ぐ公演中止やさまざまな規制により、思うように動けない日々が続いていく。そんな中でも、BAND-MAIDの面々は“まだ見ぬ世界”へと思いを馳せ、7枚目のアルバム『Unseen World』(2021年)を完成させ、この充実作を抱えて武道館へと挑もうとする。が、結果はご存知のとおり。残念ながら、武道館での単独お給仕は2023年7月末時点ではまだ実現していない。



“原点回帰”と“現点進化”をテーマに持つ『Unseen World』は、コロナ禍という特殊な環境下で生まれた作品集ながらも、バンドの攻めの姿勢はまったくブレていない。今回のベストアルバムにも収録された「Warning!」や「NO GOD」「After Life」「Manners」を聴けば、メンバーの揺るぎない信念はしっかり伝わるはずだ。そして、状況が少しずつ緩和され始めた中で完成させたEP『Unleash』(2022年)をもって、BAND-MAIDの世界征服第2章は幕をあける。“解放”を意味するタイトルの同作には閉塞感の強い世の中を打破するかの如く、臨界点超えのハード&ヘヴィチューンがずらりと並ぶ。本ベストアルバムにはその中から、バンドとしての成長が端的に表れた「Corallium」がチョイスされているが、ベストアルバム2枚を通してBAND-MAIDの10年に対し興味が強まった方は、ぜひ最新作である『Unleash』もあわせてチェックしていただきたい。



この8月にはアメリカの人気大型野外フェス『Lollapalooza Chicago』への初出演を含む北米ツアーを実施するBAND-MAID。帰国後の9月からは、3月より展開中の『BAND-MAID 10TH ANNIVERSARY TOUR』国内編も再開される。このツアーの千秋楽として、11月26日には過去最大キャパでの単独お給仕を横浜アリーナにて開催予定。結成10周年の節目を迎えた彼女たちが世界征服を遂げる上で、この横アリ公演は間違いなく過去最大のターニングポイントになることだろう。今回のベストアルバム2作でBAND-MAIDに少しでも興味を持った、新たなご主人様お嬢様はぜひ一度お給仕にも足を運んでもらいたい。もっとも、筆者がそれを言うまでもなく、このベストアルバムを聴いていれば自然と「生で観たい! この音を生で浴びたい!」と思えてくるはずだ。

Rolling Stone Japan 編集部

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