蓮沼執太が語る「純粋な自分の音楽」、小山田圭吾や灰野敬二らと録音した「環境の記録」

蓮沼執太

 
アート、演劇、映画など、幅広い分野で活動する音楽家、蓮沼執太。様々なミュージシャンたちが集ったプロジェクト、蓮沼執太フィルでの活動が長らく続いていたが、ソロ名義としては7年ぶりの新作『unpeople』が完成した。

インストゥルメンタル作品としては『POP OOGA』以来、実に15年ぶりとなる本作は、「純粋に自分の音楽を作りたい」という思いのもと、5年間にわたって制作された。エレクトロニクス、生楽器、フィールドレコーディングなど様々な音が入り混じり、さらに小山田圭吾(コーネリアス)、灰野敬二、ジェフ・パーカー、コムアイなど多彩なゲストが参加。コンセプトもテーマもなく、気持ちが赴くままに作り上げた本作は、蓮沼執太という音楽家のエッセンスが詰まった作品なのかもしれない。新作について蓮沼に話を聞いた。



ーソロ名義としては7年ぶりのアルバムですが、「純粋に自分の音楽を作りたい」という気持ちが作品の出発点になっているそうですね。

蓮沼:日々なにかしら曲を作っているのですが、その大半が誰かのため、あるいはプロジェクトのためのものなんです。もちろん能動的に作っているんですけども、演奏家や楽器割りが決まっているので、ある種制限のあるなかで曲を作っている。そういう仕事があるのは嬉しいことではあるんですけど、そんななかで「自分の現在地はどこなんだろう?」っていう疑問が浮かんできて。自分がやりたい表現ができないケースもありますからね。それが嫌だっていうわけではないんですけど、そういう時に小さなストレスが生まれたりする。だから、次のプロジェクトが始まるまで、1週間とか2週間とか、時間がある時に、自分の身の回りの範囲内で何か曲を作ってみようというのが始まりでした。

ー宅録状態でコンセプトもプランもなく曲を作る?

蓮沼:そうです。いつも自分の作品にはコンセプトがあって、その枠組みのなかで作品を作っていくことが多いんですけど、今回はそういうものが一切なく、ただ音を鳴らして、それを未完成のまま記録しておいて、また時間ができた時にその音を引っ張り出してきてゴソゴソやる。そんななかで、曲に仕上がるものもあればボツになるものもあるっていう感じでした。

ーそういう作り方をしたことは、これまでにもあったんですか?

蓮沼:以前は曲を作り始めるとすぐにできちゃったんです。曲作りは最初が肝心だと思っていたので、「これはあまり良くないかも」と思ったら、寝かさずにゴミ箱に捨てていた。今回は結果的に寝かすことになったんですけど、2カ月後に聴き直してみると前には聞こえなかったものが聞こえたりして、それも面白いと思えたんです。曲をちゃんと完成させようと思ってなかったから、そんな風に思えたのかもしれない。だから、音の扱い方とか曲の作り方も普段とは違うことをやってみようと思えたし、自分をどれだけ活性化させて、どれだけフレッシュなことが出来るのか?みたいなところを試していたんだと思います。



ーアルバムを聴いた時、遊びの感覚があると思いました。一見、抽象的な音の作りをしていながら、難解さより自由さを感じました。

蓮沼:それはすごく嬉しいですね。普通の作品作りとは違っていたのは確かです。何の制限も、明確な目的もないなかでの作業だったので。

ー曲を聴く限り、曲作りの出発点はメロディーやリズムではないですよね。

蓮沼:僕がシンガー・ソングライターだったら、言葉や歌から出発するかもしれませんが完全に違う。といって、ピアノや楽器を使って曲を作るという感じでもないので最初は音ですね。(曲作りの)入り口はできれば非楽器で開けたい。でも、そうするとただの音になってしまうので、音から音楽に近づける際に大きな役割を果たしたのがシンセでした。シンセや楽器を入れるとことで音が音楽に少し近づく。フィルをやっていると、どうしても楽器を意識して曲作りしなくてはいけないのですが、僕は本来、音から出発して音楽に向かっていくということを再認識しました。

ー音といえばフィールドレコーディングした音源が曲に使われていますね。以前から蓮沼さんはフィールドレコーディングをされていましたが、今回はどういう目的で使用されたのでしょうか。

蓮沼:フィールドレコーディングという手段は、あまりこういう録音音楽のためには使ってはいませんでした。どちらかというとインスタレーションとかプロジェクトに投入するメソッドなんです。それを今回は曲で使用しようと思った。フィールドレコーディングした音が曲の出発点になっているんです。

ーフィールドレコーディングの音源から、どんな風に曲を作り上げていくのですか?

蓮沼:例えば、緊急事態宣言が出た翌日に渋谷の街でフィールドレコーディングしていたんですよ。そしたら、「外に出ちゃいけない」って言われているのに子供達がサッカーをしてて(笑)、それが面白いと思って録ったんです。その音を聴いているとハーモニーやリズムみたいなものが自然に浮かんでくるんです。頭の中で音を分析しているのかもしれないんですけどね。例えばシャソールというフランスのミュージシャンがいて。

ーはい。いま話を聞いていてシャソールのことを思い出しました。彼もフィールドレコーディングした音源から曲を作りますよね。鳥の鳴き声からメロディーを見出して、それを発展させたり。

蓮沼:そうそう。あそこまで環境音を音階としてディフォルメしたいとは思わないけど、(環境音を)音楽的に紐解けるポイントがどこかにあるんです。ここにモジュラーシンセを入れてみたりして、意外にあうな、と思ったら繰り返して入れてみる。そういうことをやってるうちにグルーヴが生まれて、そこにメロディーを入れてみたりするんです。

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